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ドラゴンクエスト・アナザー

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第十話 「砕かれた青い珠」


 ロマーナで、ルナパークの街に天空の兜があるという噂を聞いた一行は、街を目指して歩いていた。
「これでやっと二つ目か」
「あればの話だけど」
「また魔物が襲って来るんだろうな」
「たぶん来るわね」

 ルナパークの街に着いた四人は、話を聞こうと街の人を探した。
しかし妙に人の数が少ない。
店の商人や宿屋の女将などはいるのだが、住宅に住んでる人がまるでどこかに行ってしまったようである。
そのうち急いでどこかへ向かっている人がいたので、つかまえて聞いてみる。
「あんたたち旅の人かい? ここに魔物が攻めてくるそうだから、早く逃げた方がいいよ!」
一行はもっと話を聞こうとしたが、その人は走り去ってしまった。

 さらにセーラたちは人を探した。
やっと宿屋の二階で人を見つけたので尋ねてみる。
「数日前使い魔がやってきて街の人々にこう告げたのです。天空の兜を取りに来るので用意しておけ。もしなかった場合にはおまえたちの街を全滅させると。それから街の人たちはどこかに避難を始めました。そして魔物がやってくるのは今日なのです!」

 宿屋から出るとだいぶ暗くなっていた。
一行はふと異様な雰囲気を感じ、あたりを見回す。
すると北西の空から大勢の魔物がやってくるのが見えた。
やがて魔物たちは街の近くに降り立ち、その中から巨大な魔物が近づいてきた。
「俺はゼランだ。さあおまえたち、早く天空の兜をよこすのだ」
四人が相談していると、ゼランが気づいた。
「おまえたちは勇者一行か。ちょうどいい。ギルドラス様からはおまえたちも殺すように命令されているからな」
「ギルドラス? ギルドラスとは誰だ!」
「ばかなやつだ。そんなことも知らんのか。ギルドラス様は我々四天王や魔物たちの頂点に立つ魔王様だ」

 四人はまた何か相談した。
「ねえ、何で天空装備を狙うの?」
「おまえは勇者のくせに何も知らんのだな。封印が解けたギルドラス様の体は既に復活している。だがまだ魔力が戻っていない。魔力を復活させるためには四つの天空装備が必要なのだ」
「でも魔力だったら天空装備よりもあなたたちの方が持っていると思うんだけど」
ゼランはしばらく考えていたが答えは出なかった。

「俺がわからんことを聞くな!」
そしていきなり暴れだした。
それに合わせて他の魔物たちも襲ってくる。
「だめだ。街の中で戦ったらマーベルの街の二の舞になる!」
「街の外におびき出して!」
四人は街の外に出ていき呪文で攻撃した。
しかし倒しても倒しても魔物の数は一向に減らない。
戦いは完全に長期戦となっていった。

 どのぐらい戦ったであろうか。
ベホマで体力は戻っても、精神力までは全快しない。
「おい、一体こいつら何匹いるんだ!」
「わからん! どこかに魔物の巣でもあるんじゃないか!」
魔物の巣と聞いて、セーラはぼんやり考えた。
ミラの街では魔物は東から来たと聞いた。
だが今回は魔物は北西から来ている。
その交差するところが”魔物の巣”。

 そのときマリアが叫んだ。
「セーラ、危ない!」
セーラの体はゼランの手につかまれてしまった
「さてどうしてくれよう。このまま握りつぶすか」
「私を殺すと天空の兜が手に入らなく
なるわよ」
「それは困る。よしおまえは人質だ。だが俺は知ってるぞ。この青い珠はジャマだ」
そう言うとゼランは青い珠を握りつぶした。
青い珠は砕け散り、セーラは意識を失った。
「セーラ! セーラー!」
マリアがセーラの名を呼ぶが何の反応もない。
そのうちに東の空が明るくなってきた。
「チッ、もう朝か。いいかおまえたち、明日の夜までに天空の兜を用意するのだ。それまでこの女は人質だ」
そう言うとゼランの姿はかき消えてしまった。

「セーラの青い珠が壊れた……」
「これじゃまるでレイのときと同じじゃない! セーラも死んじゃうの!?」
「マリア、落ち着け。時間は次の日没まである。それにセ-ラがどうなるかはわからないから、ここで考えても仕方がない。今俺たちがやるべきことは、一刻も早く青い珠を元に戻す方法を見つけることだ」
「でもどうやって?」
「青い珠の呪いを解いてくれたじいさんを探すんだ!」

 三人は以前セーラから聞いていたオルドの家の場所を探した。
だがそこには林しか見当たらない。
仕方なくマリアたちは林の中に入っていった。
しかしどの道を通ってもいつの間にか林の外に出てしまう。
じりじりと時間だけが過ぎていく。

「一体どうなってるんだ、この林は」
「早くオルドさんに会わなきゃならないのに」
「わしをお探しかの」
突然後ろから声がしたので、三人はびっくりした。
「あの、オルドさんですか?」
「いかにも。わしゃオルドじゃ」
「実は……」
「まてまて、ここで立ち話もなんじゃろう。話はわしの家で聞こう」
そう言うと林の中へ入って行く。
三人もあわててオルドについて行くが、不思議なことに今度は家が現れた。

 オルドの家で三人は青い珠が砕かれたことを話し、拾い集めたかけらを見せた。
「うむ…… 青い珠をここまで砕くとは恐るべき奴じゃ。これを元通りにするにはかなりの時間が必要じゃろう。今から始めても夕方に終わるかどうか」
「夕方…… ぎりぎりだな」
「おそらくこのかけらだけでは足らんので、かけらの補充をせねばならん。そしてこの珠は聖なる力がその源じゃが、その力を全て失っておる。そこで再び聖なる力を珠に込めることが必要じゃ」
「あの、それで青い珠を失ったセーラの体は大丈夫なんですか?」
「おそらく一日は持つまいて。できるだけ早く珠を身に着けさせないと危険じゃ」
「そ、それじゃ一刻も早くお願いします!」
「うむ、それでは僧侶のお嬢さん、お主も手伝ってくれんか」
「はい!」

 オルドたちは祠にやってきた。
中は暗闇で何も見えない。
だが歩き出すと行き先を示すように炎が灯っていく。
やがて祭壇に着くと、オルドは青い珠のかけらを祭壇に置き、周りに明かりを灯した。

「さてお嬢さん。これからお主にやってもらいたいことは、この空間を聖なる力で満たすことじゃ。具体的には儀式が終わるまで、青い珠が元に戻るよう祈っていて欲しい。だが一つ気をつけることがある。邪念じゃ。人間余計なことを考えまいとするほど考えてしまう。無の境地になることが大事じゃ。もっと詳しく教えてやりたいが時間がない。頼んだぞ」

 そう言うとオルドは祭壇の方を向き、何かを唱え始めた。
マリアも一心に祈り始める。
そのうちマリアはふと考えた。
これでもし間に合わなかったら一体どうなるのだろう。
マリアは頭を振った。
(いけない、いけない。集中しなきゃ)
だが思いとは裏腹にいろいろなことが想い出されていく。
そして亡くなった両親と幼いころ遊んだ記憶が甦る。
「む?」
オルドが顔を上げると祭壇の炎が大きく揺れている。

 マリアはとうとう一番思い出したくないこと、アルメリアでの祖父ジムラと憎むべきバルガとの戦いを思い出してしまった。
(おじいさま……!)
マリアの心はしばらくその場面にとらわれてしまった。
祭壇の炎が激しく揺れ始める。
(これはわし一人でやるしかないのう)

 そのときマリアの頭にセーラの姿が浮かんできた。