時間のカーテン
美人ではないけどドキドキするような魅力を感じさせる(透明な)笑顔は相変わらず素敵だった。
新しくできた娯楽施設の話、鳥インフルエンザの話、布団干しの時に布団の表側も干すべきかどうかの話をした。
表面上は「知り合いの友達」という関係だった。そんな付き合いがあったことすら誰も知らなかったはずだ(今も知らないと思う)。
その時期、その瞬間だけ、お互いに不足しているものを補うかのように接近する必要があり、お互いの人生の中での必然だったのだろうと思う。
「いまは幸せ?」
「旦那とうまくやれてるの?」
「子供はやっぱりできないの?」
聞きたいことはたくさんあった。しかし、そんなことを聞ける親密さはすべて「時間」というカーテンの向こう側に置いてきた。
あの頃は既にボクも彼女も大人だった。そしてそれからの時間がもっとボク達を大人にした。
他人を傷つけず、自分も傷つかず生きていく「時間の優しい使い方」は二人とも合格点。今日は当たり障りのない世間話だけで終わったし、将来もそんな感じだと思う。
人生を線に喩えると「二本の直線が一瞬だけ交差した瞬間」があの頃だったのかもしれない。
そしてその線が交わることが二度とないことをボク達は知っている。
「お互いの記憶の片隅に残るほんのわずかな楽しい思い出」……そういうのも悪くはないな。