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Choice ~チョイス・その3~

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Choice1-3

おそらく昨日の
Pm7:30
カイル

 今日の仕事が終了した。この仕事も楽じゃない。
 …麻薬の密売人。

 まぁ、俺は無能だし…。やっと手にした仕事なんだから、しばらくはこのまま続けるしかないな。

 そういえば今日のあの常連の女、いつもと何か違った気がする。
 何というか、小奇麗にしてたというか。いや、元々かなりの美人だけどさ。
 しかも、あの何度も掛かってくる電話を切る仕草…。

Pm7:00

「おい、電源は切ろよ。」

「ごめんなさい。」

 麻薬を渡している最中、何度も女の携帯電話が鳴る。

「旦那か?」

「いいえ。…いや。あの、…あなたに関係ないでしょ。」

 動揺していた。
 浮気だな。そう思ったが、女の言うとおり俺には関係ない事だ。

 金を貰ってから、自分の車に乗り込む。
 フロントガラスから女が駆け足で去っていくのを見ていた。

 …麻薬なんて…。あんな美人なのにもったいねぇな。


 車を走らせていると、あの女の横を通り過ぎた。
 半袖のYシャツを着た男と一緒だった。
 その男は腕にある肘までの長い傷跡が印象的だ。
 女の後姿は楽しげで、いかにも浮気をする女の後姿だった。

Pm8:00

 家に到着。ボロい安アパートだ。

 真っ直ぐ冷蔵庫の中のビールを取り出して飲む。
 煙草に火をつけて、ビールを飲みながら吸う。

 今日貰った金をテーブルに並べてみた。
 …汚い金なんだよなぁ。

「はぁ…。」

 ため息が出る。

 その時、どこからか物音がした。

 …隣の部屋からか?

 部屋中を見渡す。
 密売人になってからというもの、物音に敏感になっていた。
 いつも何かに追われている様な気分だ。

 気のせいか…。

 だが、また音がした。

 気のせいじゃないな。

 部屋の奥を見ると、何かが動いた。

 …誰だ。

 強盗か?それとも警察か?

 警察だったらヤバいな。体が固まった。
 
 どうしよう、逃げるか?
 いや。もし警察だったら外に警察が待機しているかもしれない。

 とりあえず、近くにあった懐中電灯をもって部屋の奥に行くことにした。
 一応逃げれるように窓も開けて置こう。ここは一階だし、何とかなるだろうから。

 ゆっくり歩みを進める。

 床が小さく音を立てる。

 出てきたら、この懐中電灯で殴ってやる。

 …。

 …。

 …誰も居ない?

「やあ、カイル。」

 いきなり、誰かが名前を呼んだ。

「誰だ!」

 驚きと反射神経のせいで声のする方を振り向く。

 ガツッ

 誰かが俺を殴ってきた。一瞬だが懐中電灯の光で姿が見えた。

 …ブタ?

 朦朧とした意識の中、そいつが俺の腕に何かを注射器で注入してきた。

 睡眠薬か?

 朦朧としていた意識がさらに遠くなる。

 何が起きたんだ…。

Am2:30

 ここはどこなんだ。
 何が起こっている。

 心臓がバクバクしている。吐きそうなほどに。

 しばらくして、突然電気がついた。

 (う、目が痛い。)

 わけがわからず、ただ何の意味もなく立ち上がると足元からガチャガチャと音がした。

 …足首に鎖が繋がれている。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

Am3:56
エマ

「あなた麻薬の密売人だったの?」

「ああ、そうさ。」

 カイルは密売人だった。

「私が一番嫌いな職業よ。全ての物においてね。」

「だろうな。俺だって心から望んでこの仕事に就いたわけじゃないさ。」

 
 ダニエルは何か考えてているようだった。

「どうかしましたか?」

「ん?あぁ、いや。私も思いだしたんだ。ここに来るまでの事を。あと、ここに来る羽目になった原因も大体だが見当がついた…。心理実験じゃないかもしれん。」

 ダニエルが原因の見当がついたと言った瞬間、カイルが反応した。

「本当なのか?誰だ!誰が俺をこんな目に!」

「おい、落ち着け。あくまで予想だ。」

「ダニエルさん、聞かせてくれますか?」

 ここで飢え死にしても私は構わないけど、どうして私がこうして彼らとここに来ることになったかは気になる。

「カイル、時計があったよな?今は何時だ?」

「…4時だ。あと、5時間はある。」

「わかった。少し長くなるかもしれんが聞いてくれ。」

「はい、もちろんです。」

「5時間以内には終わらせてくれよな、ダニエル。」

 ダニエルさんの話に、私は興味津々になった。

Am4:00
エマ

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

おそらく昨日の7月23日
Am7:37
ダニエル

「じゃあ、行ってくるよ。」

「気を付けてね、あなた。あまり頑張り過ぎないで。」

「ああ、そうするよ。」

「行ってらっしゃい、パパ。」

「今日もいい子にしてるんだぞ。」

 私には妻と娘がいる。娘はもうじき5歳だ。
 幸せな家庭であることに感謝している。

 私は弁護士として働いている。
 それなりに実績もあり、収入も安定している。

 裕福な家庭に育ち、今まで金に困ったことはない。
 順風満々は人生を歩んでいることに、いつか罰が当たるんじゃないかと思うこともある。

Am11:20

 職場で書類を整理していたら、別室にいる秘書から

「ダニエル。また、あの方から電話が。」

 という電話が掛かってきた。

「またか…。私は居ないと伝えてくれ。」

「了解しました。」

 またか。困ったものだ。

 最近、やたらと電話や手紙が送られてくる。

 ずっと昔、私が弁護した被告を訴えていた原告からだ。

 私はその裁判に勝ち、被告を濡れぎぬから救った。

 …いや、濡れぎぬではないか。
 
 ここだけの話、少しだけ小細工をしたんだ…。

 被告は完全に有罪だった。
 だが、私の連勝(言葉がおかしいかもしれない。)がかかっていたのだ。
 地位を落とさない為に、被告が無実になるように情報を作り変えた。

 原告側の家族は、いかにも結果に不満のようだった。
 息子を殺した犯人が目の前で無罪を言い渡されたのだから、無理もない。

 しかし表面上、無実は無実だ。
 原告の文句は、ただの言いがかりに過ぎなかったのだ。


 だが、その裁判から数年が経ち、私は結婚し娘も生まれた。

 親になるというのは不思議なもので、価値観というものがガラリと変わる。
 今は原告側の家族のあの時の表情を思い出すと、大変申し訳なくなる。

 私はなんてことしたんだろう、と。

 私がもし同じことされたら、きっと彼らと同じ様になるんだろう、と。

 そんな風に過去の過ちを思い出し反省するようになった今日この頃、その元原告の家族から電話や手紙が送られてくるようになった。
 …元原告の家族からと言うより、殺された息子の父親ひとりからだ。

 電話や手紙には、「いつか復讐してやる。」「自分の過ちを思い知る日が来るぞ。」「お前を殺してやる。」「苦しめてやる。」