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江垣 深影
江垣 深影
novelistID. 38123
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透明な怪物

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まだ人間と魔物が同じ世界にいたころ、魔王は一匹の怪物を作ることにしました。
どんな英雄も勝てないように、魔王は怪物に様々な力を与えました。
そして誰もが恐れるように、怪物はとても恐ろしい姿になりました。
魔王は最後にまだ目覚めぬ怪物を遠いところに放ちました。
魔王は怪物が世界を壊すことを願っていました。

 どこかも解らぬ遠い地で、自分が何者か解らないまま、一匹の怪物が目覚めました。
怪物はじっとしててもしょうがないと、近くの村へと向かいます。
でも怪物が近づいていることを知った村人たちは、村をすてて逃げました。

 そんなことは知らない怪物は誰もいない村を見て思います。
 ”ここは今まで見たものとは全く違う。きっとぼく以外の生き物が作ったに違いない。”
怪物は村の色んなものを見て、それを作った何かが現れるのを楽しみにしていました。
怪物が特に好きだったのは絵画と本でした。
 ”こんなに素晴らしいものを作れるなんて、早く会いたいな。”
魔王の思いとは逆に、怪物は人間も世界も大好きになっていました。

 ですがどんなに待っても怪物の前には誰も現れません。
そこで怪物は人間を探す旅に出ました。
本で読んでから旅は怪物の憧れでもありました。

 どんどん歩いて行った先に、怪物はとある町につきます。
あそこにはきっと人間がいると思い、怪物は急ぎます。
ですが人間は怪物の恐ろしい姿を見て、あるものは逃げ出し、
   あるものは戦うことを決意します。

 怪物は人間たちに武器を向けられ悲しくなります。
どこか誰もいないところで暮らそうかとも考えましたが、あれほど会いたかった人間、
   怪物は大好きな人間と友達になりたかったのです。

 怪物は別の町に向かうことにしました。
 ”そこはぼくを受け入れてくれるかもしれない。”
ですが何度繰り返しても同じです。
 ”この姿だとみんな怖がってしまう。”
怪物は自分の姿を変えようとします。
でも何でもできるはずの怪物は自分の姿を変えることができませんでした。
だれもが恐れる姿でいるようにと、魔王がその力を与えなかったからです。

 そこで怪物は透明になって、新しい町を目指します。
最初はみんな驚いたけれども、怪物が色んな手伝いをしていくうちに、
  町の人たちは怪物を受け入れてくれました。
ですが怪物が自分の姿を見せると町の人たちは武器を取り、怪物に言いました。
 ”この町から出ていけ。”

 悲しくなった怪物は、それでも町の人たちを困らせたくなかったから、
   また新しい町に行きました。
今度は絶対に姿を見せないと決めて。

 新しい町で怪物はみんなの役に立ち、町の人に受け入れられます。
ですがあるとき、怪物を作った魔王がそれを知ってしまいます。
怪物が人間と暮らしていることに魔王は怒り、町ごと怪物を滅ぼすことを決めました。

 魔王がどんなに部下を送っても、怪物は負けません。
怪物は町を守り、町の人も怪物のことが大好きになりました。
とうとう魔王は自分が行くことにします。
魔王と怪物はどちらも負けません。
戦いが3日間続いたとき、魔王が言いました。
 ”次の魔法は透明な体を通り抜ける。姿を現さないと町は滅びるぞ。”
怪物は思います。
 ”ぼくの姿を見てしまうと、きっと町の人たちはぼくのことが嫌いになるだろう。”
魔王も同じ考えでした。

 怪物は姿を現します。魔王は驚きました。町の人たちも怪物の姿に驚きます。
怪物はそれを見て、少し悲しくなります。
でも怪物は町が滅びるよりも、自分が嫌われるほうがよかったのです。

 怪物は魔王の魔法を受け止めて、町を守りました。
怪物は負けませんでした。
怪物との戦いで力を使い果たした魔王は遠い世界に逃げました。

 町を守った怪物は最後の力を振り絞り、町の人たちに言おうとします。
 ”大丈夫、ぼくはもうすぐ消えるから。”
怪物が口を開いたその瞬間、町の人は声をそろえて言いました。

  ”君は英雄だ。町を救った友人を私たちはずっと忘れないよ。”
怪物はそれを聞くと、何も言わずに満足そうな表情で消えていきました。

 数年後、旅人達の間である町が有名になりました。
その町は色んな所にとても恐ろしい姿をした怪物の絵が飾ってあるのです。


   怪物がとても楽しそうに人間と遊んでいる絵が。

          -fine-
作品名:透明な怪物 作家名:江垣 深影