涙のわけ / 詩のようなもの
昭和の悲劇
俺のオヤジは酒乱だったので
中学の頃までは
毎晩
いつかぶち殺してやろうと思っていた
でもよく考えたら
そんな奴のために(尊属)殺人犯になって
自分の一生をボーにふるのはアホらしい
ということに
高校生の頃になって気付いた
で 考えたのは
できれば金持ちのクルマかなんかに轢かれて
交通事故かなんかでくたばってくれたら
保険金や慰謝料が入るはオヤジは消えるはで
一石二鳥だと
思うようになった
我ながら発想の転換の巧みさに
高校生らしくセブンスターをふかしながら
少し悦に入ったものだ
ところがオヤジはその後
一向にクルマにも轢かれもせず
当然保険金も残さず
微々たる財産さえも残さず
定年後
あっさり酒のやり過ぎでくたばってしまった
病院に駆け付けた俺は
内心怒っていたのだ
これでせっかくの土日が潰されてしまった
「せっかくの仕事のない土日が!」
それを聞いた弟が嫌な顔で俺を視た
愚にもつかない
昭和の悲劇である
作品名:涙のわけ / 詩のようなもの 作家名:池本浩一