すっとこ…
「何だよ!その掛け声は!」
力仕事をしているとはいえ、持ち上げるたびに相方に言われちゃあ気にもなる。
「すっとこどっこいどっこいしょ!」
「だからさ『すっとこどっこい』って言われりゃ『馬鹿野郎』ってことだろ?」
「いやーそんなつもりはー」
「じゃあどんなつもりだい?」
重い荷物を一旦下ろし考え込む相方に呆れる男は空を見上げて待つこと三分。
「えー考えてみましたが、気合が入るってところでしょうか」
「は?」
その膨らんだ風船の空気の抜けたゴムのような、たらんとした弛みを感じ苦笑い。
「だからもっと気合を入れるなら言葉を選べよ」
「といいますと?あ、『うんとこどっこいしょ』とかですか?」
「まあ、さっきよりはましかな」
相方は、置いた荷物に手を掛けてチカラを込めて持ち上げようとした瞬間だ。
「うんとこどっこいしょ!」プ!
「おい、おまけがついたぞ」
「いや、最後のは、おまけじゃなくて自然の現象で…」
「どっちにしてもだ。掛け声が悪いんじゃないのか…ったく」
相方は再び、考える。
「うん。この言葉はどうでしょ?『えんやーこらや』ね」
「ま、待て。区切りに気をつけろ。トイレでも聞けるもんじゃないがな」
「あ?何か・・・」
「い、いや、これは説明はやめておこう。さっさと片付けるぞ」
でも、相方は荷物を持ち上げてはくれない。
「さっさっさー。ほいさっさー。ってできればいいんですよね」
「まあそうだが」
「それなら、ちょちょいと待ってておくんなましー」
「は?なんだそりゃ」
相方が、何処かへ消えたと思ったら、ガチャガチャゴットンと何かを運んできた。
「お待たせでーす。ハンドリフト使いましょう」
「な、なんと!」
「もっと早く言ってくれればいいのに。『ささぁーのさー』ですね」
すると、キコキコ荷物を持ち上げて一人でシャカシャカお片付けをする相方。
「へいほー。終わりやした」
「この、すっとこどっこい!もっと早くに…まあいっか。ごくろうさん」
なんだか楽しい仕事を終えた満足感を感じるふたりだった。
「あーちょいと!そ、そこの読んでたお方様・・・貴方様の気合の掛け声は何ですか?」
「今度の荷物の為に、是非教えておくんなましー・・・よろ!へい」
―了ー