人魚姫の願いごと
「わたしは愛されたいのです。王子に一言、愛していると言って欲しいのです」
「ああ、なんと欲深き。ああ、なんと罪深き」
頭の中で、声が響く。昔は苦楽を共にした仲間たちの声。
「お前は、掟を破った」
「お前は、閉塞した狭き無限の世界で、罪を償え」
くきゃきゃという狂った笑い声に、意識を掻き乱された。
とぷりと、水が揺れた。たゆたう、水底の奥。ここは、どこだろう。
わたしは毎日泣いて暮らした。涙は溶けて消えていった。
動けない程の小さな世界。そこはきっとちいさな海。
なぜ。どうして。どうしてわたしはここにいるの? こんな風に過ごさねばならぬのなら、いっそのこと、海の藻屑となってかき消えたかった。
神様、どうして、あなたはこんなにも残酷なのですか。
――おお、ついに。
相変わらず頭の中で、声が響いていた。
「どいて、そこをどいて。邪魔だよ。そこは、ぼくの場所だ」
幼い少年の声だった。
やめて。ならわたしは、どこへ行けばいいというの。まえまで、藻屑になってしまえというの。
「やめて、そんなに自分を責めないで。ただぼくは、あなたの狂おしき運命を呪うだけなんだ」
どうしてそんなことをするの。運命ってどういうこと。やめて、もうやめて。
「お前さえ、お前さえいなければ」
もう、聴きたくない。
「その愛は、ぼくへ向けられたのに」
――気持ちが悪いの。
気の遠くなるほどの長い時間。
狭くなる世界に不安を感じながら、無理だとわかっている反抗をする。壁を思い切り蹴り飛ばし、自分の非力さに絶望する。
「そんなことしないで。どうせ無駄なのだから」
忌々しい声が、また響く。
――今、蹴ったわ。
突如激痛に襲われた。どうして。なんで痛いの。熱い。苦しい。どうして。助けて。
世界から水が溢れだす。狭い世界が与えたいたものは、苦痛でも安息でもあったのだと思い知る。ぎゅっと締まる。
――どうしよう、痛いの。
解放は同時に苦痛となる。いずれ快方へ向かうとわかっているのに、やはりどうしても痛い。
涙があふれて、衝動で思い切り息を吸う。
「元気な女の子ですよ」
「まあ素敵!」
「王子様、お顔をご覧になって」
「なんて可愛いんだ。天使の様だ!」
「そりゃあそうよ。あなたとわたしの子だもの」
「ああ、愛しているよ、ぼくの可愛い天使……」
あたたかな笑いの零れる様な空間だった。