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母から私 私から娘へと ~悲しみの連鎖~ (続)

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  「絶望の刻(とき)」

 絶望というのはこういう刻(とき)を言うのだろうか?

 遺書を書き残し、高速道路を走りながら、次のカーブを曲がらなければ……
 目を瞑ったままで、ハンドルを切らずにそのまま走れば……
 そうすれば死ねる――。

 そう思いながらも毎回、もしここで死んだら後を片付ける人は大変だろうなあとか、子供たちはやはりショックだろうなあ、などと考えては思い切れず、いつものように自宅に帰って来てしまう。

 だからと言って、帰った所で状態が良くなっているわけではないのに……。

 しかし、本当の所は違っていた。
 それは、怖かったからに他ならない。
 ただ、怖かったのだ。死ぬことが。
 意気地なし! と自分を何度も責めた。

 しかし何度高速道路を走っても、結果は同じだった。

 生きることが辛い。
 でも死ぬことも怖くてできない。
 現実から逃れることもできない。
 夜逃げも考えた。
 その後どうなるのか……。 
 大勢の人に迷惑を掛けてしまう。
 もしかしたら子供たちともそれっきり会えないということにも……。
 できれば避けたい――。

 そんな悠長なことを言っていられるような場合でも状態でもないのに。

 結局、最も現実的な手法で苦しみから逃れた。
 それは法律の加護という名の責任逃れだった。

 苦しみからは逃れたが、同時に自由からも見放された。
 社会の一員としての存在価値もなくなった。

 気持ちは底なし沼に沈むがごとく沈んで行った。
 そこから這い上がるには時間が必要だった。

 自分の心を整理し、身の回りも整理した。
 あとは、すべてを失くした者だけに許される、やり直しの第一歩を踏み出すことだったが、その一歩がなかなか踏み出せない。

 一番大変なのは心の整理だった。

 誰にも会いたくない。
 過去を知る人とは話もしたくない。
 そのことには触れても欲しくない。
 ないない尽くしで自分の殻に閉じこもる。

 そんな日が続いた。希望の光の欠片が見えるまで……。

- 完 -