面接官
「自分はAK47であれば、射撃は勿論、不具合が起きても暗闇の中で分解修理できます」
俺は面接官にポツリと答えた。
AK47(カラシニコフ)は旧ソ連のいささか年季が入った自動小銃だが、紛争地帯では今もこれが主力だ。
様々な国でバチ物が製造されている理由は、最も構造が単純で信頼性が高い為。
俺達西側出身の傭兵でもこの銃の派生型を使用する者が多い。
だが、面接官の表情は変わらない。
それはそうだろう。こんなことはモ○ンビークの少年兵だってできる。
「そうか。では高野君、マーシャルアーツの腕はどうかね?」
そう、ここでは素手で制圧することが求められるのだ。
「元スペツナズ教官からシステマを叩きこまれています。ボ○ニア紛争では敵味方に分かれた、そこにいる島田君の腕をへし折りました」
巨漢の島田を除く応募者全員がクックと笑った。
「そのかわり、てめえのアバラを三本へし折ってやったじゃねえか」
島田が噛みタバコをペっと吐き出しながら、苦々しく言った。
「私語は慎んでもらおう。君は柔道はやらないのかね?」
「柔道は学生時代に三段をとったきりです。戦場ではシステマや柔術以外使いませんが、マク○バの町で警備を担当していた時には役立ちました。その仕事は相手を傷つけず逮捕するのが目的でしたから」
「なるほど。君の格闘技の腕は分かった。だが、この仕事はそれだけでは勤まらない。高野君は一応大学を出ているようだが、外国語は堪能かね?」
これには全員が失笑した。
あたりまえの話だが、俺達傭兵は仲間と意思疎通ができないと商売にならない。
それは即、死に直結するのだ。
日本の学校教育では英語がまったく理解できなかった俺だが、戦場では簡単に覚えられた。
それどころか・・・、
「英語の他、ロシア語、フランス語、スペイン語、アラビア語、ヘブライ語でしたらスポークスマンも務められます。あと、タミール語や広東語も会話程度でしたら・・・」
「では、何か私に言ってみたまえ」
「vaffanculo!」
「ふむ、イタリア語もできるようだな。だが二度と私に『クソ野郎!』とは言わないように」
傭兵仲間が爆笑した。
「最後にもうひとつ聞こう。君は相手が少年兵だった時、どう対処したかね」
「傷つけるのは本意ではなかったので、相手が銃を持っていない場合は、当て身で気絶させ、国連の教育機関に送りました。少年兵の殆どは満足に文字も読めない状況でしたから」
その答えに面接官は満足そうに頷いた。
「君達全員を採用しよう! 今回の仕事はシエ○レオネ以上に困難な仕事かもしれないが、がんばって平和をもたらしてくれたまえ」
文化省の面接官は書類に判を押し、俺の手を力強くにぎった。
こうして俺達は柔道や英語の特別教員として・・・、
新たな戦場、日本の中学校に派遣されたのだった。
〈 おしまい 〉
作品名:面接官 作家名:おやまのポンポコリン