ツイッターお題短文集め
-----------------------------------------------
「このコーヒーには毒が入ってるわ」
女は表情を変えず、私の目をまっすぐに見ながら言った。
店員は怪訝そうな顔でちらりとこちらを見たが、私と目が合うとすぐにメニューを下げて行ってしまった。
そんな店員の態度に気にも留めていない女は、私から視線を逸らさずに、赤い唇から歌うような美しい声を出す。
「このコーヒー一杯に、一人分の致死量。一気に飲み干さないと、死ぬことも出来ずに苦しむことになるわ。
貴方には、このコーヒーを全て飲んでしまえる勇気が、あるかしら?」
このコーヒーを飲んだら、あの人と別れてあげる。女は次にそう言った。
私はじっと、目の前のコーヒーを見つめた。
「飲めないの?」
沈黙したままでいる私に、彼女は高らかに笑い声をあげた。
しかしその表情は少しも面白そうではなかった。
むしろその目は、涙とも悲しみともつかない、鈍い輝きが放たれていた。
だが私はそれも見ないふりをした。プライドの高い女に対する、それが私なりの気遣いであった。
「私だったら、ためらいもなく飲んでやるわ。毒でも、何でも。あの人のためになら」
急に声を低める女から、それでも私は一度も目を逸らさなかった。
毒を飲めない代わりに、大きな突き刺すような視線から、逃げることはしなかった。
――私だって、あのひとを渡したくはない。
すると女は細い腕を伸ばして、目の前のティーカップを乱暴に奪った。そして自分の口元へと運び、一気に傾ける。
ごくり。ごくり。ごくり。
綺麗な白い肌をした喉がうねり、景気よくコーヒーは飲み干されていく。
息を吐いた女は、気の強さをすべて視線に声に気迫に込めながら、しかし何でもないことのようにいう。
「貴方の恋人は返してあげる。つまらない貴方にぴったりの、下らない男だったわ。私には、不釣合いだったのよ」
さよなら、と女は言いながら椅子から立ち上がり、身体を翻す。手からちゃりんと小銭が落ち、それはコーヒー一杯分だった。
女の飲んだ、勇気の分。私は何だか力が抜けていくのを感じた。
私は喫茶店の窓ごしに見える、去っていく女をぼんやりと追いながら、思考する。
店員が持ってきたばかりのコーヒーに、毒なんて入っているわけがない。
だけど、と私は思う。本当に、毒だったらいいのに、と。
もし女が戻ってきたら、きっと敵わない。私は馬鹿でつまらない女で、あの女はどこまでも気高く綺麗だ。
あの人は私を選んでくれたけれど、次はきっと敵わないだろうと、私はどこか確信をもって思う。
だから――女の飲んだコーヒーに、毒が入っていたらよかったのに。
だけど悲しい女の背中は、それでもしゃんとまっすぐなまま、未練さえ残さずに街の中へと消えていった。
「キリン」「対決」「観光」の3つの言葉を含め、3ツイート以内で童話を書きなさい。 (11,10,25)
-----------------------------------------------
僕はこの世界がとてもだいすきです。ここにはキリンがいます。とても大きくて黄色くて首が長くて、とにかく迫力があります。たまにキリン同士が対決をします。とても激しくぶつかり合うので世界がゆれて地震が起き、世界が滅亡しかける前にようやく勝敗がきまります。僕はほっとして、勝負を終えたばかりのキリンたちに餌をやります。もちろん勝ったほうには負けたほうの倍の餌をやっています。そうすると、勝ったほうのキリンは喜び、負けたほうは今度こそ勝ってやると意気込み、対決がとても白熱したものになるのです。最近では、これを名物に、観光客を呼んでいます。観光客は命がけで戦うキリンたちを見てとても熱くなっています。僕はそれを見て満足感に胸を熱くさせていましたが、隣にいた観光客の一人が、そういえばそろそろ目覚めなくていいのかい、と僕に囁いてきました。その顔はお父さんによく似ていましたが、僕が消えろというともういなくなっていました。この世界は僕の思う通りになります。だから僕はこの世界がとてもだいすきです。
こんな場所で、生きている。それは私に衝撃を与えた。なんて素晴らしいことだろう、私はここに生きている!ゴミ溜めのような場所で誰にも必要とされずにむしろいらないと言われながらも生きている!それは何て奇跡だろう!もし今「すごいね」と誰かに頭をなでられたのなら、私はあと百年生きられそうな気がする。
(11月16日)
さようなら。僕は呟いた。隕石が落ち、街は崩壊し、天井が崩れても、まだ僕は生きている。さようなら、愛しきひとよ。目の前で泣いている彼女。いや、笑っているのだろうか?もう何年も、彼女の表情は変わらない。そのことに僕は絶望していた。さようなら。僕は足元の椅子を蹴り飛ばした。
(11月15日)
「あなたは間違っている」。涙で頬を濡らし、強く揺るぎない憎しみを込めた瞳は、私を射抜く。私はその視線を受け止めながら、鼻で笑った。「馬鹿ね。私は自分を還りみたことなんてないわ。いつだって私は前を見てきた。後ろなんて見ていたら、私はもうそこから進めなくなる。それはすなわち、私の死だわ」
(11月15日)
「早く素敵な彼女が出来るといいわねえ」うるさい。「結婚はまだなの?もう若くないんだから」余計なお世話。「いつになったら子供ができるの?早く孫を見たいわあ」出来ないものは出来ないんです。「ねえ、どうして私の言うことを聞かないの?」どうして私の好きにさせてくれないの?
(11月15日)
作品名:ツイッターお題短文集め 作家名:椿すみれ