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鳥面犬

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道を歩いている時だった。そろそろ薄暗くなってくるというような時間で、買い物の帰りだった。自宅から歩いて十分ほどの距離だ。店が建ち並ぶ町並みは過ぎ、周囲は全て民間に変わり尽くした頃だった。
 自分が歩く道の先から、犬がやってきた。気づけば向こうから犬が歩いているのが見えたので、どこの曲がり角を曲がってきたのか分からなかった。とりあえず分かっているのは、さっきまでは犬がいなかったということだけだった。
 犬は、小型犬だった。ずんぐりとした体をしていた。ブルドッグとかパグとか、そんな犬かと思った。白っぽい毛で、尾は短い。首輪はしていないように見えるが、飼い主はいるのだろうか。リードをつけていないので、散歩の途中に逃げてきたようには思えなかった。
 犬は、徐々に近づいていた。
 犬は堀にそって歩いている。こちらも道に沿って歩き続けている。だから犬との距離が近づくのは当然なのだが、その距離にはっとした。犬の息づかいが聞こえた。
 はっはっはっは、と舌を出して息を吐く犬は、遠くから見たよりも大きく見える。真っ黒な瞳がまぶたの下一杯に広がっていた。ずっと前だけを見て進む犬は。今から目的を果たそうとしている兵隊のようだった。犬らしくない仕草に、不気味なものを感じた。
 思わず目をそらした。何も見ていないようなふりをして、なにやら怖くて目をそらしたのではないということを全身で表現した。自分以外の誰も、犬のことを見ていないのに。誰に対してそんな虚勢をはっているのかと自問自答して、不思議な気分になった。そうか、この犬を見ているのは、自分しかいないのだと。そう考えると同時に、もう一度犬に視線を戻していた。そして、心の臓が止まった。
 犬は、鳥の顔をしていた。つぶらな瞳にとがったくちばし。頭は丸く、毛は茶色。黒と白の斑点は、雀だとすぐに分かった。あまりにも驚いて、体の動きの全てが一時的に停止した。次の一歩を踏み出そうとして持ち上げかけた足は、細かくふるえて今にもバランスを失い倒れそうだった。手にかかるレジ袋のくいこみが、何倍も重く感じた。
 雀が足を止め、徐々に顔を横に向けた。いつの間にか自分の視線は前を向いていた。無意識に動き始めた足は、しっかりと地面を踏みしめていた。先ほどの二倍の速さで歩きながら、こちらを向いた顔を視界の端に収めていた。
 こちらを完全に見ていたのは犬の顔だった。到底振り返ることはできないが、おそらく今振り返って犬の顔を確認しても、大きな黒い瞳の犬の顔をしていると思った。雀の顔になる前の犬を見たときには気づかなかったが、犬の口元に、うっすらと赤いものがついているのが見えた。今のは人面犬なのだろうか。けれども、人の顔ではなかった。見間違いであることを願いながら歩き続けていると、右に曲がる路地に見つけてしまった。
 雀の死骸だった。つぶらな瞳はまだ黒々と光っていた。血のついた羽はあちこちに飛び散り、首はもげて転がっていた。ちぎれた足を見ながらぼんやりと考えた。
 この雀は、何故死んでいるのだろうか。さっきの犬に殺されてか、食べられてか。でも、犬が雀を食べるなんて聞いたことが無い。大きな鳥が雀を襲ってそれを犬が手をつけたのだろうか。
 そんな思考をしているうちに、ふとある一説が思い浮かんだ。だがぐちゃぐちゃとした考えを整理してまともに受け入れたくなくて、頭の中でそのことは考えないようにしながら再び歩き出した。雀を置いて帰路につき、ようやく家の前までたどり着いた。すぐには家の中に入らず、レジ袋を持ったまま突っ立った。
 ――――――もしも、さっきの犬が、雀を殺して食べたのなら。
 ――――――もしも、雀を食べたために、犬が雀の顔をしたのなら。
 ――――――人面犬は、人を………………。
 どこからか先ほどの犬が再び現れるような気がして、周囲を見渡すことなく、急いで玄関を開けた。
作品名:鳥面犬 作家名:こたつ