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雪割草

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〈40〉紀州の若君



朝、与兵衛の父、与左衛門は若君の屋敷へ行った。
そこには今にもどこかへ出かけようとする若君がいた。

「若、今日は行かせません。大切な御用があります。」

「うるさい。俺は子供じゃない!勝手にやりたいようにやる!」

「若、お待ちくだい!おい、若を止めるのだ!」

傍で見ていた年寄りの下働きの者たちが若君を止めに入ったが、若い男には到底かなわなかった。

「まぁ、よろしい。今は遊びに出かけられても、昼には私の屋敷に必ず座っていらっしゃる。」

「そんなこと、やれるならやってみろ!」

与左衛門の言葉通り、悪友と遊んでいる間ずっと何者かにつけられていた。
あっと、気付いたら、縛られ、屋敷に運ばれていた。

「くそっ。何者だお前は。」
控えていた、怪しい乞食の身なりをした男に聞いた。

「八嶋の息子、与兵衛でございます。」

与左衛門が息子に若君の後をつけさせ、無理に屋敷に運ばせたのだった。

「あ?なんだ与兵衛だったか。わからんかったぞ。」

良く見ると、与兵衛の顔だった。
しばらく見ていなかったが、何度も遊んでもらった記憶はある。

「それは私の技量が上がった証拠でしょうか?」

「そういうことにしておこう。はははは!」

「はははは。ありがとうございます。」

「って、笑ってる場合じゃない!なぜ俺をここに連れて来た!申せ!」

「あるお方があなた様にお会いしたいと。」

「誰が?」

その時、与左衛門と、光圀が現れた。
続いて、早苗と助三郎もあとに続いた。

「ワシじゃ。」

「誰だ?じいさん。」

「若!お言葉を慎みなさい!水戸の御老公様です。」

「嘘を申せ、どこからみても大店の隠居だ。」

「格さん、あれを。」

「はい。若様、証拠はここに。」

「…本物か?御無礼つかまつった。平にご容赦を。」

「まぁ、よい。お前さんに聞きたい事がある。良いかな?」

「は。なんなりと。」

「そなたの兄じゃ。どういう関係になっておる?」

「子供の時から仲が悪うございます。兄たちに、私は湯女の子供だと蔑まれて来ました。」

「そうなのか?与左衛門?」

「はい。母上のご身分がお低いので、長男の親戚の家老が殿の留守中にそのお方を国はずれの田舎に追いやりました。」

「母上とは?」

「たまにこっそりと会いに行っております。与左衛門、口外するでないぞ。母上に危害が及ぶ。」

「は。わかっております。」

「そうか、苦労しておるの。して、一番聞きたいことは、二番目の兄の母方の家老がお前さんをはめようとしているそうだが。」

「そうでございますか。長兄の方はずっと前にあったのですが、次は次兄ですか、面倒な。」

「お前さんの人生に関わることじゃ。解決せねばならん。光貞殿も望んでおられる。」

「父上が?」

「母親がどうであれ、お前さんも大事な光貞殿の子じゃ。光貞殿が心配して、この与兵衛を使わせた。ワシは上様から頼まれたのじゃが、おそらく上様にも申し上げたのじゃろう。」

「そうでございましたか。わざわざ私のようなもののためにお越しくださりありがとうございます。」


「お前さん、グレておると聞いておったがそこまでではないの。」

「え?」

「真面目に受け答えができる。身なりもきちんとしておる。
ワシの方がもっと上手じゃ。ハッハッハッハ!」


「いったい、ご隠居はどんなんだったんだろうな?格さん。」

「気になるなぁ。助さんは噂とか聞いたことなかったのか?」

「ワルだったしか聞いてない。具体的なことなんて恐れ多くて誰も噂しないよ。」

「へぇ。」


「…では、若君安全のために、しばらくは出歩かないようにな。」

「はい、仰せの通りにいたします。」





その晩、寝る間際になっていきなり光圀が言い出した。

「言い忘れておった。明日八嶋殿について手伝いをしなさい。
ついでに探索のいろはも仕込んで貰うのじゃ。よいな?」

「はい。」


早苗と助三郎は先に寝た光圀を部屋に残し、縁側で明日のことについて話していた。

「あんなこと言ってたけど、与兵衛さんすごいんだろ?俺らみたいな未熟者がついていって大丈夫かな?」

「精一杯足手まといにならないようにするしかないだろ。」

「何か役に立つこと教えてくれるかな?」

「楽しみか?」

「あぁ。ちょっとな。じゃ、明日は早いから寝るか。おやすみ、格之進。」

「え?」

なんか初めて面と向って格之進って言われた気がする。
この姿での本当の名前。ちょっとびっくりした。

「なんだ?あれっ?格之進じゃなかったか本当の名前。」

「あぁ…いや!格之進で合ってる。」

「いかんな、お前と会ってからほとんど本当の名前で呼んだ事がないから忘れたかと思った。」

ちょっとわたしも呼んでみたくなった。

「助三郎。」

「ん?なんだ?」

「…ただ呼んだだけ。」

助三郎さまって言ったはずなのにな。やっぱり『さま』が抜ける。
あれ?きょとんとしてるけど…

「どうした?」

「なんでもない。お前に本当の名前呼んでもらったらなんか気恥ずかしくて…。」

本当は早苗の姿と声で「助三郎さま」って呼びたい。その時、喜んでくれるかな?

「もう寝るぞ。助さん。」

「そうだな。おやすみ、格さん。」





次の日の朝、早苗と助三郎は与兵衛について仕事に向かった。

「忍びとほぼ同じことを私はするので、本業でないお二方にはキツいかも知れませんよ。」

「というと?」

「屋根裏も行きますし、不法侵入もする。女を口説き落としたり、誘拐したりと汚い仕事もします。」

「…女はイヤだな。」

「格さん、女の子苦手だそうですね?…由紀から聞きました。」

「え?」
そっと言われ、与兵衛の表情を見ると、すべて知っているというような顔をしていた。
しかし、それが嘘だったかのように笑顔で再び話し始めた。

「今日は、家老の屋敷の屋根裏に行く予定です。密会をするという情報が入ったので盗み聞きをします。」

「やった、屋根裏初めてだ!ネズミいるかな?」

「…たまにお前真面目じゃ無くなるよな。大抵好きな物のときに。」

「…」
仕事中だった。私情はいらないんだ。

しかし、助三郎はなぜかネズミの話題に乗って来た。

「あのな、格さん。ネズミはネズミでもドブネズミでデカイやつだぞ。ハツカネズミみたいに可愛くないぞ。」

「ドブネズミだって目が黒くて丸くて可愛いじゃないか。俺はどっちも好きだ。デカイから気持ち悪いなんて差別だ。」

「ダメだこりゃ…与兵衛さん。この動物大好き人間ほかって仕事行きましょう。」

「…本当お二人見てると面白いですね。いい仕事仲間がいて羨ましいですよ助さん。」

無駄話もしながら目当ての家老の屋敷近くに来た。

「屋根裏は、おわかりかと思いますが音をたてては絶対にいけません。」

「気付かれたときは?」

「ネズミの泣き真似をします。もしも相手が槍を突き刺してきたら、血糊を穂先に垂らします。それでやり過ごすんです。」

「一言も話さないようにお願いしますね。では、行きましょう。」



忍び込んだところは、茶室の屋根裏だった。
作品名:雪割草 作家名:喜世