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雪割草

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〈38〉ついに紀州へ



やっと紀州。
人助けしたり、悪者退治したり、仲間が増えたりしたけど、どうにか無事に紀州に辿り着いた。

城下町を景色を眺めながらのんびりと歩いていた。

「紀州って、みかんがいっぱいあるんですよね?食べたいなぁ。」

今はそろそろ夏でみかんの時期が過ぎている。木には葉っぱが茂るばかり。
それでも新助の食い気は消えていなかった。

「食いすぎて手が黄色くなればいいのに。な?格さん。」

「あぁ。見ものだな。ははは。」
本当に黄色くなるのかな?見てみたいかも。

「二人とも変な冗談やめてくださいよ。…あれ、由紀さんは?」

三人で冗談言いあっている間に姿が見えなくなっていた。

「ほれ、あそこにおるぞ。由紀、待ちなさい。早すぎる。」

一人で先を急いでいた。
皆を後ろに置いてきたことにようやく気付いた。

「申し訳ありません。焦りすぎですね。」

「しょうがないわよね?由紀さんあのお方に会いたくてたまらないんだから。」

「お銀さん。からかわないでください!」

「いくら走っても与作は逃げないぞ。」

また与作って言ってる。由紀怒るんじゃないかな?

「与作じゃありません!与兵衛さま!なんで覚えられないのかしらね!…え?」

予想通り助三郎に向って怒っていたが、いきなりまた何かに気付き、走りはじめた。

「待ちなさい由紀!はぁ…はぁ、格さん、追っかけるのじゃ!」

「はい。由紀さん!走らないで!」

「何よ!止めないでよ。あそこに与兵衛さまいるんだから。」

「どこに?」

「あれ!」

指さす方向には武家姿の男はいなかった。
代りに、明らかに町人の格好をした男が大店の店先に立っていた。

あんなの与兵衛さまなの?






一人で突っ走り、由紀はその男の元に駆け寄った。

「与兵衛さま!」
やっぱり、本物の与兵衛さまだわ。

「あっ…。あんた、どちらさん?」

顔、覚えてないの?確かに最後に会ったのかなり前だけど…。

「由紀です。江戸からここまで来ました。」
お願い。由紀って呼んで。

「知らんの。人違いやないか?」

「そんな…わたしです!与兵衛さま!」

「帰った、帰った。邪魔や。あっ!お嬢さん。」

目も見てくれない与兵衛が見た先に、大店の娘らしき人物がいた。

「与作さん。誰?その娘。あんた二股かけとったん?」

「そんなわけありまへん。俺はあんただけや。ささっ、行きましょ。」

なんで、町人の娘と仲良くしてるの?
わたしはどうなったの?

「…与兵衛さま。」
最後の望みをかけ、すがりついた。

「うるさい!黙れ!あっちへ行け!」

ハエを追いやるかの様に腕にしがみついていた由紀を払いのけた。

「みっともない娘やね。さっさと消えて。目ざわりよ。ねぇ、与作さん。うち、櫛が欲しいわぁ。」

「買うてあげましょ。なんでも好きなの。」

二人で楽しそうにしながら人ごみの中に消えていった。



そばで一部始終を見ていた早苗は、地面に座り込んでうつむいている由紀の姿がいたたまれず、助け起こした。

「…大丈夫か?」

「…来るんじゃ無かった。」

「人違いかもしないだろ?あんな格好だし。」

「目があったときに『あっ』て言ったのよ!本人よ!」

「本当か?」

「えぇ…。もう、イヤ…。」

鳴き始めてしまった。
いつも明るい由紀なのに。
ここまで落ち込んで泣くなんて…。
早苗に戻って抱き締めて慰めたい。
でも、助三郎さまと新助さんがじきに追いついてここに来るからできない。


「お銀、俺の代りに由紀抱きしめてやってくれないか?」

「いいわよ。ねぇ、由紀さん、何か理由があったのかもしれないわ。泣かないで。」

「何の、理由が、あるんです?きっとわたしが要らなくなったんです…。わたしなんか…。」

一向に泣きやまない。

「結婚なんか考えないで仕事してれば良かった。帰ったら復帰する。もう、男なんか知らない。」

「そんなこと言わないの。落ち着きなさい。顔がすごいことになってるわよ。」

「…知りません。…鼻紙あります?」

「ちょっと、待ってね。あれ?由紀さん、袖に入ってるじゃない。それ、使いなさい。」

「…なに?この紙?こんなの入れてないけど、ちょうどいいわ。」

「由紀、ちょっと待った!何か書いてあるぞ。」



「…え?うそ…」
読み終わって、一人でボーっとしている由紀の手から紙を取り、読んでみた。
書き手はかなり焦って書いたらしく、どうにか読み取れる程度の文だった。

「なになに?…今晩城下外れの神社にて待つ、八嶋。…八嶋?誰だ?」

「与兵衛さまの姓…やっぱり本物よ。今さら何の用かしら?」

「行くよな?」

「行きたくない。どうせ、別れ話持ち出されるに決まってる。」

「行ってこいよ。違うかもしれないだろ?」

「そうよ、心配しないで。みんなでついていってあげるから。」





城下に宿を取り、早苗は光圀と助三郎に、由紀に起こったことを細かく話しておいた。

「ほら、やっぱり与作だったろ?俺だったら偽名そうするからな。」

「バカ。そんな話じゃないだろ。」

「すまん。で、俺らは今晩どうする?」

「ついてくか?…どうしましょう、ご隠居。」

「もちろん、行くぞ。話を聞いて、今後の対策にしたいからの。」





その日の夜、由紀を一人神社の社の前に残し、早苗と助三郎、光圀は隠れて見張っていた。

「…由紀殿。」

不意に声が聞こえた。

「誰?」

「私です。与兵衛です。」

「どこ?」

「ここです。」

男が現れた。
昼間の町人とは違い、二本差しの武士姿の男だった。
助三郎が「ぶ男か?」と想像していたのは外れた。
そこそこの男前だった。
強いて言うなら、これといった特徴というものが無い。
潜入、密偵の仕事にはもってこいの印象に残らない姿。

「与兵衛さま?」

「はい。…由紀殿、さっきはすみませんでした。仕事中だったのでつい…」

「そうでしたか…ごめんなさい。邪魔してしまって。」

「…いえ、貴女を見て動揺して怒鳴ってしまいました。ごめんなさい。」

「…構いません。」



早苗の隣で見張っていた助三郎がつぶやいた。

「…あれが由紀さんの愛しの与兵衛さまか。」

「…結構格好いいんじゃないか。優しそうだし。良い相手かもな。」

なぜか分からないが無性にムッとした。

「…由紀さんにバカにされる。俺なんかダサいって。」

「…心配しなくても助さんの方が絶対良い男だ。」

「…バカ、恥ずかしいこと言うなよ!」

「…良いだろ!思ったこと言っただけなんだから。」

「…お前にいわれてもな。慰めにしか聞こえないんだよ。」

「…なんで?本当にそう思ったから。…一番、格好いいから。」

どうして平然とこういうこと言うのかなこの男は…。
でも、なんかこいつに言われると無性にうれしい。
いかん、こいつ男だった…。
恥ずかしくなって助三郎は早苗を見るのをやめ、再び由紀と与兵衛の様子をうかがった。

「…おい、あれ見てみろ。」

「…いいなぁ。」



二人が羨んだのはちょうど与兵衛が由紀を抱きしめていた光景だった。

「…由紀、会いたかった。」
作品名:雪割草 作家名:喜世