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雪割草

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〈36〉看病



一件落着してホッとし、場の雰囲気が和んでいた時、
早苗は横の助三郎の様子に違和感を覚えた。

おかしい。
ふらついているような気がする。

「大丈夫か?」

「心配ない…」
っと言ったそばからしゃがみこんだ。

「おい!おかしいぞ!」

「ハハ、何ともないって。ほっとして気が抜けただけだ。」

「立てるか?」

「あぁ。…あっ、いかん、目眩がする。肩かしてくれ。」

そうは言ったが全く立てる様子ではなかった。
力が入らず、地面に手を付いて肩で息をしていた。

「立てないじゃないか!そんなので大丈夫じゃないだろ!
なんで今まで平気な振りしてたんだ!?」

「心配かけたく、なかったから…。」

「どうしましょう?ご隠居さま。」

「人を呼ぶかの。」

やるしかない、迷惑はかけられない。

「私が担いで行きます。真之介さん。家を借りますね。
お奉行様、お医者様の手配をお願いできますか?」

「わかった。待っておれ。」


「格さんできる?大の男一人よ?」

「できる。俺だって一応男だ。」

由紀を抱っこできたんだからできるはず。
鍛練で助三郎さまを投げ飛ばしたことあるからできるはず。

「なんだ、一応男って?お前、変なやつだなぁ。」

冗談を言う気力もなくなってきたようだ。

「いいから、黙ってろ。」


背負ってみたが流石に男だ、重い。
でもつれてかないと。
気力で踏ん張った。

「重いだろ?すまん…」

「謝るなら無理してたのを謝れよ…」

「すまん…」

息が荒い、体が熱い。
こんな状態なのによくあんなに闘えたものだ…。

「助さん、こんなにひどいのに良く刀振れたな。いつもよりすごかったぞ。」

「仕事だから…武士としてあたりまえだ…。」

「…そうか。」

やっぱり『助さん』は『佐々木助三郎』だ。武士だ。

「本当の男だな。助三郎…」

返事は返って来なかった。寝入ってしまったようだ。
そのせいか余計重くなった。


助三郎さまをおぶうなんて思ったこともなかった…
小さい時におぶってもらったお返し。
姿はあの時と違うけど…
またいつか早苗のままで背負われてみたいな。




「新助!由紀!居るか?」

「えっ、助さん、やられたの!?」

「いいや、熱で倒れた。布団と水を頼む。」

「お医者様は?」

「すぐに来るから大丈夫だ。」



それから数日、助三郎は寝込んで目を覚まさなかった。
命に別条はないが、風邪をこじらせたそうだ。

心配でたまらない早苗は光國に頼んで看病していた。
昼は昏々と眠っているだけだが、夜になると熱が上がる。
頻繁に手拭いで暑い頭を冷やさないと、体に悪い。


…ねぇ、早く目を開けて。
元気な声を聞かせて。
「格さん」でいいから名前を呼んで。

そんなことを考えながら傍でうつらうつらしていたが、突然助三郎がうわごとを言い始めた。

「どこだ…?どこにいる…?」

誰か探してるの?

「…今、助ける。」

手を差し伸べてきた。

誰なの、言って。
近くにいるならつれてくるから。


「…早苗。」

わたし?
会えなくても平気って言ってたのに。
イヤミや笑い話しかしなかったのに。
なんで?

「どこだ…?早苗…」

尚も空を切る助三郎の手を握りたくなった。

できない、今は格之進。手は大きい、男の手。
でも…
眠っている助三郎さまには、わたしの姿は見えない。
今、この部屋にはわたししかいない。
少しの間なら…。
この男の低い声はイヤ…。
本当の声で話しかけたい。
少しだけ…。


「…助三郎さま、しっかりしてください。」

柔らかな手で助三郎の手をそっと握った。
まだ熱い…。

「早苗はここにいます。心配しないで。ゆっくり休んで、良くなってください。」

しばらくすると助三郎の呼吸が穏やかになった。

良かった、このままいけば、熱が下がるかもしれない。
そろそろ離さないと、名残惜しくなる。

手を布団の中に戻そうとした瞬間、ばっと手をつかまれた。

え?なに?

「…早苗、行くな。」

…そんなこと言わないで。
貴方の傍に今この姿では居られない。
もう変わらないといけないの。

…でも、わたしは貴方の隣にいる。
心だけは傍にいるから。


「わたしはどこにも行きません。貴方の隣にずっといます。だから…」


足音が聞こえた。
誰?

「格さん。晩ごはんが…」

いけない。新助さんだ。

「入りますよ。」

つかまれていた手を振りほどき、すかさず格之進に変わった。

「どうした、新助?」

「晩ごはんとってやすんでください。おいらが今晩は看病するんで。」

「あぁ。ありがとう。じゃあ、頼むな。」

助三郎を見やると、安心したのだろうか、穏やかな呼吸で眠っていた。
今までで一番穏やかな眠り方に思えた。

わたしの声、聞こえたかな?
これで、熱下がるかな?
早く良くなって…助三郎さま。







次の日朝早く、新助の声で目が覚めた。

「皆さん!助さんの目が覚めましたよ!」

覚めたの?本当?
自分の目で確認するまでは喜べない。

「助三郎!?」

「どうした?格さん。突っ走って、騒がしいなぁ。」

「助三郎!目が覚めたか!熱は下がったな?…良かった。」

うれしい、ちゃんと目を開けてる、話してる。
もう、安心だ。

「…おい、泣くなよ。」

「泣いてない。この姿だと涙でないみたいだ。変だな。」

全く涙が出てこない。
うれしくて、泣きたいくらいの感情はすごくあるのに。変な感じ。

「は?なにわけのわからんこと言ってる?」

「いや、なんでもない!」

「まぁ、いい。心配かけたな…。ご隠居、申し訳ありません。みんなもすまんな。」

「これからは具合が悪かったら必ず言うのだぞ。わかったな?」

「はい…気をつけます。」

「しばらくはここで休養じゃ。ゆっくり治しなさい。紀州で何があるかわからんからの。」


作品名:雪割草 作家名:喜世