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雪割草

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〈35〉下手人発覚



「…申し訳ありません。真之介さんが、つかまりました。」

「私の不注意です。申し訳ありません。」

「…格さん、お前のせいじゃない、俺も悪かった。連帯責任だ。」

負い目を感じていたのが少し救われた。

「夫は、夫は無事なんですか!?」

「生きています。が、どこに連れて行かれたのか…。」

「すみません、取り乱しました。…しかし、このままでは死罪にされます。どうか、この子の父親を助けてください。お願いいたします。」

「必ず、生きて連れ帰ります。気を確かに持ってください。…お疲れでしょう、赤ちゃんと休んでください。」

「お気使いありがとうございます。では、失礼いたします。」



そこに朝から調べに出ていたお銀が戻ってきた。

「お銀、下手人はわかったか?」

「奈良奉行の息子です。血がつながらない連れ子だそうで、父親と反りが合わない、廃嫡にされそうな状況の中でのうっぷんばらしに鹿を斬っていたようです。」

「ご隠居、明日の晩またそいつが鹿を殺しにやってきます。そこを捕まえましょう。」

「わかった。では、今夜はここまでじゃ。」




「おはよう、助さん?」

部屋の隅で眼頭を揉んでいた。

「ん?あぁ、おはよう!」

「どうした?頭痛いのか?」

「いや、肩こっただけだ。布団が硬いだろ?どうも合わんみたいだな。」

「そうか…」

肩凝ったなんてこの人の口から聞いたことがない。
やっぱりあの雨の日から何かおかしい。

気になって、ずっと様子をうかがっていた。
食欲があまりない。ため息が多い。
ボーっとしている事が多い。
風邪かも。
こんな状態で夜の張り込みは危ない。



「助さん、ちょっとこっち来い。」

「なんだ?」

「寝ろ。」

「は?これから張り込みだろ?寝るわけにはいかん。」

「風邪だろ?寝てないとダメだ。さぁ。早く。」

「イヤだ。まだ明るいうちから寝るなんてヤダ!」

「ガキみたいなこと言ってないで!新助!見張り頼むな。」

抵抗したが、無理やり布団に押し込んだ。

「はい。助さん。寝ましょうね。ゆっくり寝て格さんと真之介さんの帰り待ちましょうね。」

「なんだその話し方は。俺はガキじゃない!」

「いいから、寝てるんだぞ。」





その夜、早苗は一人でじっと待っていると昨日と同じように下手人の男と手下の者たちが現れた。
鹿に手を出す前に捕まえようとしたが逃げられてしまった。

失敗だ…。
やっぱり助三郎さまは器用なんだな。
弥七さん、影で見張っててくれるって言ってたけど出てこなかったし…。
わたし一人じゃ満足にできない。情けないな。

その時、後ろから
「捕まえた!格さん、よく見ろ、後ろに隠れてたぞ!」

手下を締め上げながら姿を現したのは助三郎だった。

なんで助三郎さまここにいるの?
布団に寝かせてきたのに。

「おい!寝てろって言っただろ?」

「その話は後だ。こいつから真之介さんの居場所を聞き出すのが先だ!」

「言うか!口が避けても言わんで!」

「よし。縛って逆さ釣りにしこう。頭に血が登ってじきに吐くだろう。」

「へっ、言うもんか!」

その時、弥七がどこからともなく現れた。

「…助さん、そんな甘っちょろいのじゃあいけませんよ。
足の甲に五寸釘で穴開けて蝋燭さして火をつけないと。」

「なっ、なに言ってやがる!」

「…そうしたら、どうなるんだ?」

「まず、ろうが溶けて身体のなかに入る。それが身体中回っりながらゆっくりと固まる。
そして、最後に心の臓が停まって死ぬ。
ここまでに大分時間があります。それまでに聞き出しやしょう。」

「弥七、それは…」

助三郎が止めようとするのを弥七は目で制した。

「どうする?じわりじわりと死にてぇか?」

「イヤだ!言うから!やめとくれ!全部言うから!」

おびえた手下の口から居場所を聞き出した後、眠り薬で眠らせ、転がしておいた。



「…弥七、あの話って、本当なのか?」

「格さん、心配なさらず。嘘です。あんなことしたら、相手が痛くて気絶しちまうのが落ちなんでね。」

「そうか、よかった。」


「…格さん、一番怖い武器って何かわかりますかい?」

「刀じゃないのか?」

「…覚えておいてくだせい。言葉です。」

「言葉?」

「へい。人間だけが使える、便利だが一番恐ろしい物。使い方によって中から人をおかしくし、壊す、怖い物。」

「そうなんだ。良く覚えておくよ。」




「弥七、行くぞ。格さんは家に帰れ。」

「なんで?」

わたしが弱いせい?
さっき満足に仕事ができなかったせいかな?

「家が女ばかりで危ない。俺たちが真之介さん連れ帰るまで守っててくれ。
…それに、無理に来る必要ない。お前、真之介さんが拷問されてたら、見たくないだろ?」

鈍感なのに気遣ってくれてる。


「…わかった。助さん、弥七も気をつけろよ。」

「…あぁ。ちゃんと無事に帰るから。」





二人の姿が見えなくなると、早苗はすぐに家に戻った。

「お銀、こっちは無事か?」

「今のところは。でも助さんが変よ。」

「あいつなら弥七と真之介さん助けに行ったぞ。」

「じゃあ、あれはなに?」

もぬけの殻の布団が人が寝ているように膨らんでいた。
おかしいな。

布団をひっぺがして驚いた。
見張りに立たせておいた新助が猿ぐつわを咬まされぐるぐる巻きにされていた。

「新助!?」

「はぁ!助かった。」

「助さんにやられたのか?」

「はい、よく覚えてないんですけど…気付いたらこうなってました。」

「俺から謝っておく。すまんな。」

「いいえ。…それより、あれだけ動ければ平気じゃないですか?
風邪なんかひいてないんじゃ?」

「そうかな?どうだろな。」
まだ不安は消えていなかった。






夜が明けるころ、玄関に声が響いた。

「ただいま、戻りました!」

弥七と助三郎に肩を貸してもらいながら真之介が帰ってきた。
どうやら拷問は受けていなかったようだ。

「あなた!」
ずっと寝ずに待っていた瀬名がしがみついて泣いていた。

「帰ったぞ…。無事だから、泣くんじゃない。」

「はい…。」


「助さん!無事か!?」
とびつきたいけど、今は無理。
でも不安でたまらなかった。ちゃんと帰ってきた!

「バカ、なんで俺の心配なんだ、真之介さんの心配しろ。」

「だって…心配だったから…。」

全く聞いてなかった。
完全に無視された。
頭が仕事でいっぱいになってるようだ。

「ご隠居、我々の存在が知られてしまいました。
ここに来られる前に敵方に乗り込んだほうが得策かと。」

「わかった。早めにかたをつけよう。真之介さん、ついてきてください。瀬名さんとお母様は念のため納屋か屋根裏に隠れていてください。では、行くぞ。」

「あの、ご隠居さまは、いったい…」

「ただの旅の隠居じゃ。今のところはの。」





その頃奈良奉行の家では下手人である奉行の義理の息子が大目玉をくらっていた。

「お前は一体何をした!?」

「なにもしてはいません。」

「鹿を殺めたとあるではないか!?」
作品名:雪割草 作家名:喜世