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雪割草

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〈34〉鹿殺し



家の主は真面目で人の良さそうな藤井真之介という役人だった。
妻は瀬名といい、早苗や由紀と同じぐらいのまだ若い娘といった感じだった。
二人は母親と生活していた。


泣き声が奥から聞こえてきた。
お銀が聞きつけ、瀬名に聞いた。

「赤ちゃんいらっしゃるんですか?」

「はい、産まれて三月になります。」
腕に赤ちゃんが抱かれていた。

「可愛い!抱っこしてもいいですか?」

「どうぞ。すみませんがちょっとの間、預かっていただけませんか?」



「いいこね。」
あやしていたが、お銀の抱きかたがわるいせいか泣き始めた。

「あーぁ。泣いちゃった。お銀さん子育てしてないから下手くそですね。」

「新助。余計なお世話!あぁ、お母さんいないし、格さん、頼むわ!」

「え!?…よしよし、泣くな。」

抱っこしたことないけど、適当にあやしてみた。

「泣き止んだ。すごい。」

「…良いなぁ赤ちゃん。」

柔らかくて小さくてかわいい。
欲しいなぁ。

「格さん、先ずはお嫁さん貰わないといけませんよ。」
わたしは自分で産まないといけないな。



「助さん、見てみろ。可愛いぞ。」

「赤ちゃんか、抱っこして良いか?」

「助さん、抱っこ案外上手ですね。」

「可愛いなぁ。あっ…いかん、くしゃみが出そうだ。返す!」

予告どおり盛大なくしゃみをした。
さっきから回数がやたらに多い気がする。

「風邪ひいたんじゃない?」

「いや、なんともない。」

「ほんとか?変になったらすぐに言えよ。」





晩御飯を家の方たちと一緒にとらせてもらい、話を聞いた。


「真之介様は何のお仕事をされているのですかな?」

「…格さん、ご隠居の厄介な好奇心がうずきだしたぞ。」

「…あぁ、面倒にならなきゃいいがな。」

二人のこそこそ話を無視し、光圀と真之介は会話をつづけた。

「主にこの一帯で、鹿を守るお役目です。死んでしまったり、病気の鹿はいないか見て回っています。」

「鹿を殺すと死刑でしたな?」

「はい。しかも近頃の生類憐みの令でより刑が重くなります。」

「大変なお役目ですな。しかし、綱吉殿も困ったものだ…あんな悪法を作りおって。」

「え?」

「いえ、こちらのことです。ハッハッハッハ。」





朝早く、使用人の叫び声が響いた

「旦那さま、鹿が死んでいます!」

見ると玄関の外に無残な鹿の死体が置いてあった。

「誰だ。ここに置いて行ったのは…刀で斬られた跡があります。刺した跡も。
武士ですね、下手人は。」

「よくあることなんですか?」

「はい、最近増えているんです。鹿を試し斬りして、棄てておく事件が。
早く突き止めないと。」

「では、お手伝いしましょう。貴方に助さんと格さんをつけます。
ご自由にお使いください。
由紀と新助は瀬名さんのそばに、お銀は裏を調べてくれ。」




真之介について半日見回りをしたが何の異変もなかった。
やはり、夜中の犯行だろうということで張り込みもすることになった。

「申し訳ない。先を急ぐ旅の方に手伝ってもらって。」

「いえ、悪いことは外っておけないので。鹿がかわいそうですし。」

「そう言ってくれる方も大勢居るのに。なぜ殺すんでしょうかね?悲しいことです…。」

「真之助さん、早く下手人を捕まえて、無残な事件を減らしましょう。」





助三郎は晩までの空き時間、部屋でぼーっと座っていた。
知らず知らずため息が出ていた。

「はぁ…」

その様子を新助が見ていた。

「助さん、どうしました?見回りで、疲れたんですか?」

「いや…やけに寒いなぁって。」

「え?寒くないですよ。蒸し暑いじゃないですか。」

「そうか?」

「あっ…二日酔いですか?こっそり晩に飲んだんじゃないですか?」

「なんだと?ちょっと来い!」

「ごめんなさい!冗談ですって!ひっ!助けて!」






「新助、さっきの…は?お前らなにしてるんだ?」

新助が助三郎に首を絞められていた。

「格さん!助けて!」

「助さん!やめろ!素人相手にかわいそうだ。離してやれ!」

「ゲホゲホ…やっぱり、格さんの方が、優しい…」

「悪かったな!乱暴で!フン!」

「助さん、イライラしてないか?」

「いいや…別に。」

「そうか?」

「お前さぁ、本当、優しいよなぁ。」

「なんだ、いきなり?」

「…優しすぎる。どんなに俺がバカなことしても怒るには怒るが、必ず許してくれる。」

「…女々しいってか?」

「女っていうとすぐ怒るな。そんなに女が嫌いか?いいぞ、女は。ハハハ。」

「どこが?」

「可愛いし、優しい、癒される。あぁ、癒されたいなぁ…。」

「いつも声かけて、ちらちら見てるから十分だろ?」

この場に及んでまだ女のこと考えている。

「分からんやつだなぁ。その辺の女じゃ意味がない。」

「どういうことだ?」

「内緒。ハハハ。はぁ…。」

「…やっぱり、変だぞ。」

「なんともないって。そろそろ夜回りの支度するぞ。」

なんだろ?
何かがおかしい。




夕食の後、再び下手人捜しに出かけた。
昼間は東大寺の見物人や、近所の人たちが行き交う道も静まり返っていた。

「鹿って夜は眠るんですよね?」

「はい。夜は狼や野良犬が歩き回るので危険なので一固まりになって眠るんです。
ほら、あのあたりにたくさんいるでしょう?」

たくさん鹿が集まり、眠っていた。起きて見張りをしているのもちらほらいた。

「なにもいませんね。今日は出ないのかも…」

「…二人とも静かに!誰かいる!」

さっきから一言も話さなかった助三郎はやはり何かに感付いていたようだ。

「…隠れて!」

指示に従い、木陰に隠れ様子をうかがった。

「あそこに鹿がいてます。寝てるのでやりやすいやろ。」

「今日は二頭ほどやってくか。
斬りつけるだけじゃ昨日と変わらん、何か違うことをしようかなぁ。」



「…あいつらか、下手人は。」

「どうする?捕まえるか?」

「ちょっと様子をうかがおう…おい、真之介さんは?」

「あれ?隣にいたのに。どこ行った?」

「いかん!あそこだ!危ない!」


目を離したすきに真之助が飛び出ていた。

「その方ら、春日大社の使いである鹿を殺める大罪、知らぬとは言わせんぞ!
神妙にしろ!」

「誰だ?…なんだ、役人か。たかが役人の分際でこの俺に楯突く気か?」

「黙れ!お前は誰だ!名を名乗れ!」

「名乗るほどでもないわ。しかし、見られたからには返すわけにはいかん。…捕まえろ。」


助けに行こうとした早苗を助三郎が止めた。

「なんで止める!?助けないと!」

「無謀だ、よく見ろ、多勢に無勢。木陰に隠れている奴らが大勢いる。
ここで俺らが行っても無理だ。」

「どうするんだ?」

「シッ…。何か話している。」



「…下手人をこいつにしよう。そうすれば俺は罰せられない。いい考えだろう?」

「はい。鹿を守るはずの役人が鹿を殺した。罪は重くなる。面白いことで。はははは。」

「これで、明日も心おきなく鹿狩りができるということですな。ははは。」

襲われ気絶した真之介をつれて下手人は消えた。
作品名:雪割草 作家名:喜世