怪物さん物語―火の音―
焼ける灼けるやけて溶けて消えてしまう、その瞬間。
それを、私は知らない。
欲しいほしい水が欲しい。
冷たい雨を頭から浴びて何処までも冷え切って、身体ごと凍りつきたいのに。
衝動はどこまでも個人的な感覚だ。
身の内から生まれた炎は他人を焼いて、それをただ黙って見守った。
私の炎は私を焼かない。それは真実で、嘘だ。
「…………」
叫ぶような声は、喉の奥に干からびた。
燃えている風景、燃やしたのは私。
在ることと生きることの違いを問われたのはいつのことか。
母の身体裂いて生まれ、今に在るのは誰。生まれた瞬間に母を殺したのは私。
炎を振りまき、世界を殺す。人を殺すための道具。
そんなものに名は要らない。
呼ばれる名はない。
誰も呼ばない。
きっと。
「──」
しんと静まった森のような声で、誰かが誰かを呼んだ。
「――」
落ちる雨音の中、呼ばれる名を持つ人を呼んだ。
だから。
「……何?」
と、雫の中で振り返った私は、きっと、あたしなのです。
たとえ今、降り注ぐ雨をホントウに感じることが出来ないとしても。
きっと。
作品名:怪物さん物語―火の音― 作家名:Bael