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月摘あんず
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novelistID. 39866
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小さな小島のその上に

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序章 小さな小島の言い伝え



 男は満足していた。まさかこんなに早くこの地を手中に収めることが出来るとは思ってもいなかったからだ。

 この小島には妖怪が棲んでいるといわれる。それも賢く、妖怪らしい身体能力を兼ね備えている強者が。妖怪と共に暮らしている人々、緑ノ民と歌ノ民もまた不思議な能力の使い手だ。
 
 緑ノ民はその名の通り瞳が綺麗な緑色をしており、透き通るような白い肌を持ち、ひょろりと背が高く、そして目を引くほど美しい顔立ちをしている人々のことをいう。その外見からは想像できないほど武術に長けており、また妖怪の力を借りての妖術も使えるらしい。歌ノ民は瞳が美しい鳶色で、光を浴びてきらめく栗色の髪の毛を持ち、スタイル抜群で、こちらの人々もまた、綺麗な顔立ちをしていた。その名の通り透き通るような声をして、その歌声で生き物たちを魅了する。動物たちと仲がいいようで、動物との意思疎通が出来るらしい。

 こんな者たちがたくさんいるこの小島には誰も攻め入ろうとは思わなかった。確かにこの島の人々は、強い。だが、男はそれ以上の力を持っていた。鉄砲、大砲、火炎放射器などを使って人々を撃ち、吹き飛ばして、焼き払う。そう難しくなかった。

 男は最近自分の思い通りに物事が進むのでとても自信をもっていた。今、男には都市を創り出す力も、気に入った女を選んで側室にさせることが出来る力も持っていた。完璧。にやりと笑う。

 男はそのとき、背後の「影」に気付いていなかった。

 ――この島の奴、大した事ないな。

 男がそう思った瞬間、「影」が笑った。笑ったのだ。そこで男はやっと後ろに誰かいると気付いた。慌てて振り向いたが、誰もいなかった。「影」は心が読めるのだった。

 何が起こったのかさっぱり分からなかった男は考えた挙句、これは幻聴なのだ、と考えた。疲れているからあんなものが聞こえてしまうのだ、と。そう思った。

   ***   ***

 そう、この小島には、ある言い伝えがある。島民しか知らない言い伝え。

 ――もしも、我らを侮辱する者がいたら、神の化身である「影」がただでは許しておかぬ。「影」が我らの仇を討ってくれる。

 「影」は男の、島民への侮辱を「心」で聴いていたのだ。

 もちろん男はその言い伝えも、背後にいたのが「影」であったことも知らなかったが。