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水辺にはご注意を

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(語り部:小春川卯月(こはるがわ・うづき))





 まだ、オレが小さかった頃でした。
 キャンプの散歩中に水辺を見つけ、休憩したかったオレは一人、兄(あに)さん姐さんたちが狩りに行ってる間、お留守番をすることにしたんす。とりあえずどこか座るところを見つけようと、辺りを見回しました。
 すると、少し行ったところに食べられる木の実を見つけたんす。だからオレは座るところを後回しにして、それをとりにいこうとしたんすよ。
 ……ちょ、誰っすか、その頃から食い意地がはってたんだなとかいったのは! さすがになにもせずにただ待ってることは気が引けたんですってば!
 で、それで木に登ろうと足をかけたそのとき……まあ、予想はつくと思いますけど。
 ……ええ! 落ちたんすよ。というか、滑り落ちてしまったんす!
 そのまま、ドボンっした。だから笑わないでくださいってー……。
 とにかく! オレは焦っちまって、すぐ近くに浮いてた倒木らしきものに掴まったんすよ。ほっと息をつこうとすると、今度は掴まってた倒木が、急に沈みはじめてしまったんす! そのときオレはあんまりにも驚いちまって、手を離すとか、考え付かなかったんす。
 死にたくない、姉貴、姐さん、兄さん、ナギ、誰か、誰か。
 なにを思ってたんすかね、オレはその樹から手を離すことだけはしませんでした。いえ、むしろ離せなかったんす。身体もほとんど沈んで、本当にもうだめかと思った、そのときでした。姉貴たちが助けに来てくれたのは。
 突然なんすけど皆さん、Nakkiっていうノームを知ってます? ……はい【ネッキ】っす。河や湖に住んでて、いろんな姿をとることが出来て、人間や動物……特に馬とかを水中に引きずり込んでしまうんす!
 で、姉貴のこんな呪文で、オレは助けられました。

「ネッキ、ネッキ、水の中には釘がある。マリア様が水に鋼を投げられた。お前は沈め、我らは行くぞ」

 それと姉貴たちの投げ込んでくれた金属類のもののおかげで、オレはこの話が今できるってわけっす。

 ……実を言いますとね。
 あの日以来、オレは必ず金属のものを投げ込んでから、水場に入るようにしてるんす。ほんと怖いんすよ。軽いトラウマもんすよ。
 あ、皆さんも気をつけてくださいね? フィンランドにいるとかいわれてますけど、フィンランドの話だからって、【絶対】フィンランドに【だけ】出るとかいうわけじゃないっしょ? 最近は、夏以外でも水の事故が増えてるらしいですし……。
 って、あれ、全然怖くなかったすか? うーん。頑張ったんだけどな……。ほら、実際に体験してみないと分からないって言うか。え、怖い話の意味ナイって?

 ……そうだ、この前は、ぞっとするものを見たんすよ。ヒヅメが後ろ向きについてる馬を見ちまったんす。
 その馬は、沼にざぶざぶ入っていって、そのままあがってきませんでした。ネッキは、なんでか馬に化けるのが下手くそなんすよ。だからヒヅメが、後ろ向きになってしまうらしいんす。で、もしネッキの背に乗っかってしまうと、そのまま水中に飛び込んでしまうそうっす。

 え? その馬を見かけたのはいつかって?
 月桂(げっけい)学園の裏にある生徒会長の別荘……そうすよ。この近所での見たんすよ。
作品名:水辺にはご注意を 作家名:狂言巡