送り草
その様子を、少年はぼんやりと見ていた。
その少年には、一瞬で消え去った稲妻が生命のように尊い物に感じれた。
少年は、一人だ。少し前までは少年を取り囲んでいた家族や村の人々がいた。
少年は、一人になってしまった。理不尽な暴力と自らの脆弱なる精神故に。
丘の上に少年は立っている。
「ああ、稲妻よ。僕にでも落ち来てくれ。そして、そのまま僕を黒いカスにでも変えてくれ!」
少年は願った。罪悪感から逃れるために、悲劇の主役を演じるがために。
まだ、空が暗くなる前、少年の村では収穫祭が行われていた。
年に2度ある収穫祭。それはこの地でしか取れない、大変珍しい作物の収穫を記念し、また祈るための祭りであった。
母なる大地という言葉があるように、大地への豊穣を祈る信仰は根強く存在している。
少年は村の仲間と、めったに食べることができない鶏肉を食べていた。久しぶりに食べる肉の味は、少年にはなによりのごちそうみたいなものである。
だんだんと、西の空から厚い雲が見えてきた。
「これは、荒れるな」
村で一番年よりのお爺さんが呟いた。
雷の音が聞こえた。少年は一人で、稲妻を見に行こうと思い立ち、こっそりと村のから少し遠い丘へと向かった。
丘についた少年が目にしたのは野盗の集団だった。彼らの先頭を走る黒馬に乗る男は悪名高き危険な男だった。そして、また、その男が牽きいる集団もその男と同じくらい悪名高くて危険であった。
彼らの狙いは単純だった。さきほど、収穫され、今は祭りで縁起物として祀り上げられてる、あの作物の他にはないだろう。
少年はすかさず、その足を村へと向けてみんなへ警告しに行こうと思い立ったのだが、逆にその足を折りたたみ地面に座りこんでしまった。
恐怖。
圧倒的な恐怖が少年の脳裏をよぎってしまい、少年はその体の自由を奪われた。
その丘からは、少年の村が見ることができる。
――頼む。誰か気付いてくれ
少年は祈った。けれど、祈りが届く事はありえなかった。
雨が降り、風が暴れまわり、雷が轟々と鳴り響くころ、村は焼け焦げ、人々の死体ができあがった。
かわりにあの作物だけはなかった。
少年は吠えた。
応えるように稲妻が空を切った。
「騎士長。お言葉ですが、あの村の人々を皆殺しにする必要はあったのでしょうか?」
馬に乗った若い男が黒馬にまたがっている男、騎士長と呼ばれた男、に問いかけました。
「ああ。この草は麻薬といって、人をおかしくする狂気の薬なんだ。おそらく、あの村人たちはみな、既に気狂いになっていたに違いない」
「・・・彼らの幸せのためということですか?」
騎士長は少しだけ疲れたように笑うと、男に返事をした。
「そう思ってくれるなら、そういうことにしよう。あわれな彼らに冥福を」
騎士長は馬上から、さきほど奪い取った麻薬たちに松明を投げ込んだ。火はどんどん勢いを強めていき、残ったのは燃えカスだけであった。