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帯に短し、襷に流し

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二重紗と紗合わせ


 
 9月。重陽の節句の季節。
 やっと、風と空の色に秋を感じることが薄々できるようになった。
 よく間違え、私自身も間違えていたという、二重紗と紗合わせ。 
 仕立て方と織り方の違いである。
 二重紗といえば、二重に重ねた紗のことかと思っていたし、そう聞いたのだが、実は、織りの名称だったのだ。
 一枚の生地なのだが、裏と表で織り方が違い、表から見ると二重になっているように見えるので、二重紗というらしい。
 「紗」の名前がついているが、決して透ける素材ではなく、冬物である。
 この糸がとても硬く、縫いづらいので、遠慮したい生地である。
 紗合わせは何かといえば、仕立て方のことである。
 こちらは、絽や紗の派手になったお単衣の着物に、もう一枚紗をかけて、2枚を一枚の生地としてお単衣に仕立てる着物のことだ。
 ワタクシが習ったところでは、紗無双といっていたから、最初、「紗合わせ」といわれて、なんのこっちゃ???
 日本列島は、本当に長い。西と東では、着るものも違うのだ。
 あくまで単衣の着物なので、表においてぺらっとめくると、それは生地の裏になる。では、袷はどうかというと、表においてぺらっとめくると、それは、裏生地の表になるのだ。
 つまり、紗合わせは、内側の生地に、付け下げ風だったり小紋だったりする柄があり、もう一枚の生地を被せてくる。当然、裏の生地は柄のある表が表向きになるし、それに被せる紗の生地も、見えるほうが表である。それを一枚に見立てて仕立てるので、当たり前だがぺらっとめくると内側の生地の裏が見えることになる。
 袷は、表の生地と裏の生地の、裏同士が合わされて、縫込みを隠すようにとじられている。だから、ぺらっとめくると、裏生地の表が見えるのだ。
 単衣なのだから、単衣仕立てにする。だから、裏から見ると普通のお単衣と同じように縫込みの始末が見えて当たり前だし、表から見ると、くけ目が点々と見えていいのだ。
 むしろ、そうしないと単衣仕立てにはならない。
 この「紗合わせ」は、滅多にないものであるから、余計にややこしい。
 昔は、その道のお姐さんしか着なかったものである。お客さんにいただいた派手な絽の付け下げに、紗をかけたのが始まりだと聞いている。
 ワタクシの師匠の奥さんは、そんなものを一般の人が着るのには、難色を示していた。曰く、
「アレは、花柳界の人が着るもので、一般には着ないものだ」
 時がたち、いわれを知らない人が多くなると、そういうこともなくなり、見た感じお洒落なものであるから、余計に着たくなるのだろう。
 紗合わせは、単衣ではあるが、薄物でもある。
 つまり、着用時期は、衣替えにあわせれば、盛夏、となるが、実は、これに限ってそうではないのだ。
 いくら薄物とはいえ、二枚の生地を着る事になる。これは暑い。いくら薄くても、二枚も重ねれば通気性がなく、非常に蒸れる。見た目は涼しげだが、実は、暑苦しい。
 六月、と、解説しているところもあるが、蒸し殺されたいならどうぞ。
 五月の風の涼しいころにしか着ることが出来ない。

 ここらあたりも、季節と温度との相談である。

 余談であるが、「紗合わせ」は二枚の布を「合わせて」一枚にしているので「紗合わせ」であり、単衣の着物なので「袷」ではない。「紗袷」としてあるのは、明らかな間違いである。

 あまり気張らず、よき着物ライフを。
 
 
 2012.9.2
 2014.9.9 一部削除訂正

作品名:帯に短し、襷に流し 作家名:紅絹