少女探偵
今まで三度の悲劇を生んだが、その全ては他人の悲劇だった。物語として、同じ展開の連続は最も避けねばならない事態。今までにない新しい展開が必要だった。ならば、他人なんかではない、この僕が悲劇の中心になるしかない。そう、僕自身が一番大切な人間を失えば、僕はきっと今までよりもずっと素晴らしい作品を執筆出来る。そう信じて、僕は父の宝である日本刀を手にした。
月花は右肩を縦に真っ直ぐに切り裂かれ、その切り傷は胸を破いて腰の辺りまで達していた。なんて惨たらしい愛しい妹の死体。こんな悲劇を目の当たりにすれば、僕はきっと最高の物語を書ける。僕はそう信じていたのだが。
「そう信じていたのに、どうしてだろう。月花。涙が止まらない。悲劇の余韻よりも、君を喪った事の方がよっぽど悲しくて悔しくて、何の文章も浮かばないんだ。」
あとからあとから大粒の涙が溢れ、虚しく床に水滴となって散っていく。
手の力が抜け、刀をからりと取り落とす。僕はもの言わぬ月花に寄ると、彼女の死体にすがり付いた。
「月花。目を開けておくれ。そしてもう一度、僕の愚かな妄想に耳を傾けて欲しい。僕が早く気付けば良かった。君という聡明な読者がいれば 、どんな物語だって至高の宝石なのだと。僕は石を磨く事ばかりに夢中になり、君という読者を蔑ろにしてしまったのだ。どうか息を吹き返せ月花よ。そしてこの陳腐な連続殺人事件の謎を解くのだ。華麗な推理で犯人を追い詰め、僕に哀れな自白をさせるのだ。それが犯人と名探偵のいる文学だろう。違うのか。さあ月花、目を開けて。推理の場面はこれからだろう」
僕はもの言わぬ妹にすがりながら、はらはらと涙を溢した。
果たして、推理の出来ない探偵役と、探偵に推理劇をさせる前に探偵を殺してしまった連続殺人犯の物語は、ここに幕を下ろす。