足下の倒壊
気がつけば自分は黄土色の固い地面の上に立っていた。白いシャツとすり切れたジーンズを着て、黄色いしみがついた紐のスニーカーを履いていた。こんな服は、持っていないはずなのに。
目の前には何階建てか数え切れないくらい高いビルと、街灯が何本かあったはずだが、今では大地のひび割れのために傾いでしまっている。遠くに見える円柱のようなやつは、ピサの斜塔だろうか。テレビで見たときよりも大分傾いている。それでも崩れずに建っているのを見せれば、世界にいる学者たちが飛んで喜ぶに違いない。
地面も視界もゆれている。街灯がゆっくりと折れ曲がって地面に頭をこすりつけたのを見て、ようやく音がしないことに気づいた。地面と地面がこすれる音もしなければ、ビルがきしむ音もしない。
音の無い世界で、ひたすら自分はゆれていた。ビルが地面に徐々に消えていく。いずれは自分もああなるだろう。足下の地面には亀裂が生じていた。きっと、この亀裂が少しずつ広がって、自分を飲み込んでしまうに違いない。ビルほど体は大きくならないから、狭間に消えるのはきっと一瞬だ。
それでも落ちていくのに多少は時間がかかるだろうから、その間に目が覚めてほしい。痛いのは嫌だ。早く夢から覚めたいという思いを抱いて、黒いゆがみが足下で口を開くのを待った。