うこん桜の香り
西山は絵を描いていた。
百合との結婚は焦らなくて良いと考えていた。
この絵を描くように、物を良く観察し、色を選び、色を合わせ、無垢のカンバスに乗せて行く。
西山は百合を完璧な絵として仕上げたかった。
1枚の絵は人間の命よりも長く生きるかも知れない。
西山には百合と唇を重ねることや肌を合わせることが目的ではなかった。
百合の心を感じるだけで満足であった。
百合はあまりにも気高く感じた。
西山はうこん桜の気高さを百合に感じていたのである。
うこん桜に香りなどは無いのだ。
西山が感じたうこん桜の香りは百合の香りである。
また、うこん桜は珍しい桜でもあった。
それだけに西山は百合を大切にしたかったのである。