コーヒー
二人だけなのに、二人して奥の座席に並んで座った。目が合いそうで俺は少し居心地が悪かった。
テーブルには100円のものが二品。置いたまま二人とも手をつける様子はない。
右奥の子は俯いている。泣いているのかと思ったが、ぼそりぼそりとつぶやく声の調子から、どうやらひどくいらついているようだった。ますます居心地が悪い。
隣りの子は、こちらからはその表情は見えないが、恐らくなぐさめているのだろう。肩までの黒い髪が時々揺れる。だが、奥の子のいらつきが治まる気配はなく、とうとう大声を出した。
「ほんっと突然キレるからまじむかつくあいつ意味不明なんだけど
…しねばいいのに」
忌避すべき単語が飛び出してギクリとさせられる。隣りの黒髪の子はゆっくりと正面を向いて、誰からの視線も避けるようにして俯いた。
「…そんなこと、言わないで」
悲しそうな表情をしていた。
奥の子はハッとした顔をしてから、ごめんと謝った。すると黒髪の子は笑顔になって言った。
「お父さん、きっと仕事で疲れてるんだよ。頑張れって、お父さん頑張れって応援してあげなくちゃ。そうしたら、
きっと良くなるよ。」
良い子だなと思った。
俺はコーヒーカップの最後の一口を飲み干して、店を出た。