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トライアングルミュージアムからの贈り物

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小高い丘の中腹の、平べったい石の上に座って、二人は夜空の星を見上げていた。
 その瞳には、黄色く光る星々が悲しみの色を湛えて映っていた。
 二人はイトコ同士。そのせいで家族の反対を受け、今まで付き合ってきた年月に別れというケジメをつけたばかりだった。

   ***  ***  ***

 夏の夜空に輝く大三角。その三つの頂点は、ベガ、デネブ、アルタイルの三人が、不審者の侵入を阻止するために日々目を光らせていた。その大三角を横切るように大河ミルキーウェイが流れているのだが、その対岸にベガとアルタイルは配置されていて、いつもは遠くから互いを眺めるしかできないのだ。しかし、いよいよ待ちに待った今夜、二人は一年ぶりに任務を放れて大三角の中のトライアングルミュージアムでデートできるのだった。
 ミュージアムの中にはさそりのアンタレスを初めとして、いるかのロタネブ、かにのタルフやくじらのディフダ、はくちょうのデネブ、りゅうのエルタニン、うみへび・みずへびの兄弟、とかげのアルファ、うおのイータやとびうおのベータ、おおぐま・こぐまの親子など、大勢の水辺を好む生き物達がそれぞれ領地を与えられて暮らしていた。
 海の神ポセイドンは時折、行楽を兼ねてそのミュージアムを訪れ、皆の元気な姿を眺めて微笑ましく思っていた。

 普段はことなく過ぎる日々だったが、今日だけは違っていた。
 みんな緊張の面持ちでその時を待っている。
 ポセイドンは知らなかったが、今日、ベガとアルタイルはあることを決めていた。
 毎年毎年、せっかく会えても僅かな時間の逢瀬しかできずに引き離される。そんな悲しい別れはもうイヤだ――そう考えた二人は今日、ポセイドンの目の届かない遠くの世界へ旅立つ覚悟でいた。
 二人は不思議な指輪を手に入れ、それを互いに交わすことで金輪際離れ離れにはならないと信じていた。ミュージアムに住む生き物達はほとんどのものがそれを知っていて、二人が幸せになることを願っていたのだが、たった一人、りゅうのエルタニンだけは違っていた。

「やっと会えたね」アルタイルがベガに微笑み言った。
「ええ、やっと。一年ぶりね」ベガの頬が嬉しさに緩む。
「もう、金輪際 君とは離れないよ!」
「嬉しいわ!」
 ゆっくりとポケットから取り出した指輪を、アルタイルがベガの指に嵌めようとした正にその時、蒼く晴れていた夜空がにわかに掻き曇り、どす黒い雲に覆われた。
「何をしておるのじゃ!!」
 いきなりポセイドンの怒声が響き渡り、思わずアルタイルは指輪を落としてしまった。
 ヒューーーーー
 指輪は光の尾を引いて、遥か地上へと落ちていった。
「ああぁぁぁ、指輪が……」
 アルタイルとベガはたちまち絶望的な悲しみに包まれ、二人を見守っていたミュージアムの住人達も、彼らに憐れみの視線を送った。
「あははは。ポセイドン様に逆らおうなんて100年早いさ!」
 エルタニンだけが皮肉な言葉を吐いた。
 当然二人はすぐさま引き離されたのだが、落ちていった指輪は――

   ***  ***  ***

「ねえ、あれ何かしら?」
「うん?」
 琴美の指す方角に一つの光を見た彦一は、じっとその流れを目で追った。
「流れ星だろうか……」
「でも、ほらっ!」
 光はスーッと流れたかと思うと、くるくるっと輪を描いたり、微妙なラインを描きながら落ちてくるように見えた。
「流れ星とは違うみたい」尚も視線を外せないまま琴美が呟いた。

 しばらくすると、夜空に細い光のラインを描いていたものが、突如、周辺を明るく照らす巨大な光へと変わった。
 ピカッーー!!
 巨大な光は次の瞬間、二人の目の前で激しく輝き、同時に二人は薬指に激しい熱さを感じた。
「あっ!」「熱っ!」
 でも痛みはほんの一瞬だけだった。
 そして落ち着いて見てみると、二人の薬指には見たこともない蒼い石でできたような指輪が……。
 彦一が驚いて外そうとしてみたが、どんなに頑張っても外れない。琴美もそうだった。
 そして改めて見交わした二人の目には、もう悲しみの色はなく、そこには未来に馳せる思いと互いを思いやる気持ちが溢れていた。
「さあ、帰ろう。二人の家へ。そして二人の未来へ」
 彦一の言葉に、琴美は大きく「ウン!」と頷いた。


   ――七夕を間近に控えて――