小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

下克上――負け犬による負け犬の為の敗者復活戦

INDEX|1ページ/1ページ|

 
西暦20XX年
日本は未だ嘗てない大不況と治安の乱れに後輩の一途(いっと)を辿っていた。
当然だ。不況だから、仕事がない。仕事がないから、不況になる。そして、その負のループが起こるにあたり、ニッチもサッチも行かなくなった貧しい民衆の行く末は2つに1つしか残されてはいないのだ。
人からモノを奪ってでも生きるか、奪わずにただ死を待つか―文字通りのデッド・オア・ライフ。これはそんな過酷な時代を生きた猛者共。もしくは負け犬共による、それぞれの執念とプライドと戦いに塗れた、決して綺麗とは言い難い話である。


第一話「修理屋の災難」

 ○月×日の事だった。俺は一人で、寂れた大通りを歩いていた。辺りには堂々と不法投棄された大型のバイクや自転車。それに、カラスにつつかれて中身が溢れ出た生ゴミの袋やプラスチック容器やらがあり、通行人の足止めに精を出している。
「ほんと、お巡りさんは何をやってんのか」
不況とはいえ、最低限の公僕だけは未だに安定した職として残っているがまともに機能しているところを目撃したことはあまり無い。
「まぁ、いいけどね。」
おかげで俺も堂々と持ち帰れるから。
 そう、俺の仕事は修理屋。壊れた物や不法投棄された物を持ち帰って、完璧とはいかないまでも使える状態にして売り捌く。「それは違法ではないのか?」と今までに何度も問われてきたが、そんなことはない。修理することが俺の仕事なら、修理した(手を加えた)時点で売る権利を持っているも同然なのだ。だから、問題はない。それが、警察が機能していないのなら尚更だ。つまらないことで捕まる心配なんか無いのだから。
「おっと、いつまでも下らない回想をしている場合じゃなかった。」
今日は、得意客が来る日だったことを失念していた。
「まずいな。」
 のんきに宝探しなどしている暇があったら、早く自分の店へ戻らねば。
俺は、パンクしたせいでタイヤが蛇の抜け殻の様に潰れた自転車を見つけ、すぐさま飛び乗り、全速力で漕ぎ出した。
 何せ、得意客とはいえ、奴の気の短さは折り紙付きだ。店に壁に二つ目の風穴が空く前に戻らなければならない。

「よぉ、三日ぶりだな。修理屋」
俺が店に帰ってからまっ先に目に入ったもの。それは、生々しさの残る赤い染みを元は白いであろうTシャツに派手に散らし、濃い色のジーンズを砂埃などで汚した格好の珍しく上機嫌な得意客の姿だった。
「っは、間に合った・・・か。」
一方、俺は40を超えた身での全力疾走にだらしなく息を乱しながら答えた。
「んー、いや、ギリギリでアウト。見てみ」
そう言いつつ愉快気に猫目を細めながら、得意客は絆創膏だらけの人差し指で店の奥を指す。
「お、おいっ」
なんてことだ。その指の先では、折角自分が一から作った愛車が見事としか言いようのないほど綺麗に解体されていた。
「壁に穴開けられるよりは、マシでないの」
と、悪びれる様子もなく無邪気に小首を傾げる得意客。
そういう問題ではない。というか、平凡な容姿で可愛気のない18の少年が小首を傾げたところで誰も喜ばない。言葉にした途端に何をされるか分からないからどちらも、心の中に留めるが。
「・・・。」
「あぁ、そうだ。今日修理してもらいたいのはコレ」
奴は軽い調子で、先程から自分の足元に転がされた大きな麻袋を指差した。どうやらこれが今回の依頼だろう。と、俺はそれを良く見るため袋を開ける。
「はぁ。今度は何を持って来やがっ・・・。おい、冗談も程々にしとけよ」
その中に見えたのは、カラスの様に艶の良い短髪と卵のような輪郭に整った顔立ちの人間だった。
「冗談なんかじゃない。朝起きたら、ボクの枕元にあったんだ。・・・何とか息はある。ただ、三日以上付きっきりで看てきたけど起きる気配が全くない。」
有り得ない話だ。しかし先程とは打って変わって真面目な顔で状況を説明する様子は俺の見慣れた奴とは、掛け離れていて、それだけに事の深刻さが分かる。
「・・・。」
医者に掛かる金がないからここに持ってきたのだろうが、はっきり言おう。
「いい迷惑だ。だいたい、その袋からしてお前と同じくらいの年の子供だろう。育ち盛りの餓鬼一人養うのに幾ら掛かると思ってやがる。」
「あんたには、血も涙もないのか」
その言葉に俺は目を見開く。
「『血も涙もない』だって・・・自分のことを棚に上げてよく言えたもんだ。」
呆れ返ってしまい、声には気すら篭らない。
「何でもする。だから、こいつを助けてくれ」
「あのなぁ」
「頼む。」
「はぁ、一ついいか」
真剣な様子に変わりはなく、ここは自分が折れるしかないのだろう。だが、どうして他人の為になぜそこまでするのか・・・。俺が顔をじっと見たことに、露骨に眉を寄せ嫌そうな顔をされた。
「何だ」
「なぜそこまでするんだ」
「・・・。」
「お前がこいつを助けようとする理由は何だ。」
「理由、か。そうだ、似てるんだよな。あぁ、凄く似ている。」
奴が、繰り返し呟く言葉は狂信者が唱える自己暗示のようだ。危うい雰囲気が限りなく似ている。
「誰にだ。」
嫌な予感がした。
「俺が昔捕まえた殺人鬼にだよ。」
冷静な言葉に一瞬では理解できなかったが少し間を開けて俺は反応した
「何だとっ、ふざけるのも大概にしろ。そんな危ない奴に、情けなんか掛けられるか」
「落ち着け。ボクも落ち着くから。大体、似ているとしか言っていない。それに、あいつはもう死んでいるはずなんだから。」
「え、」
「死んでいるよ。3年前に。だから、ボクはこいつを看病することにしたんだ。あいつが、生きていたらこうなっていたのかな。そう思って」
「そうか。」
本当に表情豊かな奴だ。さっきまでふざけていたかと思えば真剣になったり・・・。今、俺の目の前にいるのは只の子供だ。大事なものを失った直後のように弱々しい子供。
 きっと、その殺人鬼は特別だったのだろう。でなければ、いつも強がって弱みなんか絶対に見せない奴がこんなにするはずがない。
 三日以上見ていたというのは嘘でないのかもしれない。よく見れば黒目勝ちの目の下にクマが出来ており、こころなし顔色も優れていない。
 仕方がない、か。
「わかった。出来るだけのことはする。だが、いつもの倍は払えよ。」
「分かった。で、幾らだ」
「1000,000,000」
「手を打とう。」
交渉成立。
「後で、賞金首の情報もやる。」
「ありがと、恩に着る。」
深々と頭を下げられるが、どうも居心地が悪い。
「お前も大概すごい仕事見つけたよね。」
「別に、俺だけじゃないはずだ。この【仕事】で食い扶持を稼いでるのは」
「仕事ねぇ。俺はあんな命がいくつあっても足らな無ぇ仕事を仕事と認めたくないがな。」
俺の呟きは誰にも届くことなく、心の中を漂った。