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甲冑ガール

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 幼少時から、武骨な甲冑で身を包むことを強いられた、一人の少女がいた。
 その少女とは、つまりあたし。
 あたしの父は、『戦場に立つ女性』というものに、強く惹かれる男だった。好きな歴史上の人物は、もちろんジャンヌ・ダルク。神の声を聞き、百年戦争においてフランスを勝利に導いた英雄だ。父は生まれた娘に『ジャンヌ』と名付けたかったらしいが、母を始め、周囲からの猛烈な反対により、それを諦めたという。確かに、日本人にそんな横文字丸出しの名前を付けようなんて、正気の沙汰ではない。それにジャンヌ・ダルクは、拷問の末に火炙りされて死んだのだ。縁起も悪い。
 それで結局、あたしの名前は『楽美』になった。らくみ。『インドのジャンヌ・ダルク』と称される、ラクシュミー・バーイーからの拝借だそうだ。あたしとしては、ジャンヌよりは遥かにマシだけど、これはこれでなんだかなあという感じだ。第一印象、能天気っぽそうとよく言われる。まあ、そんなことはどうでもいい。
 父はいつもあたしに言った。
 ――ジャンヌたれ。
 幼いあたしは、その言葉の意味が全く分からなかった。
 最初は『うんこたれ』みたいな汚い言葉だと思ったが、父があまりにも真面目な顔をして言うので、その解釈は間違っているという結論に至った。
 次にあたしは『焼肉のタレ』を思い浮かべた。父は焼肉が大好きだった。母が「今夜は焼肉にしましょう」と言うと、子供のように喜んだ。まあ、そんなことはどうでもいい。
 あたしは、6歳の誕生日に父から甲冑を貰った。子供用に作られた、ミニサイズの甲冑だった。それが身にまとう物であるということすら理解できず、6歳のあたしはただ呆然とするしかなかった。
 そんなあたしを見かねたのか、母は母で用意していたのであろうリカちゃんハウスを差し出そうとしたが、興奮した父はそれを押しのけ、あたしに無理やり甲冑を着せた。
 すると父は、ふるふるとその身を震わせ、あたしを強く抱きしめた。強く。
「お父さん痛いよ」そうあたしが訴えると、父は「はっは! なんだ楽美。こんな立派な甲冑を着てるのに痛いのかあ? これからは修練を積まんとなあ。おい、明日からこれを着て学校に通うんだぞ」と意味不明なことをほざく。そして真面目な顔に戻って言うのだ。
「楽美……ジャンヌたれ」
 今夜は焼肉かあ、とあたしは思った。
作品名:甲冑ガール 作家名:ちめら