DEAD END
扉だ。俺たちの目の前に、黒い扉が現れた。互いの姿以外で、白以外の色を目にしたのは、それが初めてだった。俺たちはしばし呆然としてしまう。
「幻覚、……じゃないよな。確かに扉だ。お前も触ってみろ。確かに扉の感触がある」
「……本当だ。本当に存在する扉だ。ちゃんと触れられる。ドアノブもちゃんとある。このドアノブを掴んで開いたら、私たちはここから出られるの……?」
「一緒に開こう。手を取り合って。ここまでだって互いに励ましあってきたんだ。最後も共に行こう」
こくりと、彼女は頷く。もはや言葉は必要ない。まず俺がドアノブを掴み、彼女がその上から俺の手を握ってきた。そして、俺たちはゆっくりとドアノブを回し、開く。
そして、俺たちが見たものは。俺たちが目の当たりにしたものは。ああ、それは、それは、それは。それは、きっと。
「……そういうことか」
俺は納得してしまう。それを見た瞬間、全てを理解した。俺は、彼女の顔を確かめる。きっと彼女も、俺と同じ表情をしているだろうと思った。
「私も、全部分かっちゃった……。私たちは、アダムとイブだったんだね」
「多分もう誰もいない。みんなみんな、いなくなってしまったんだ。だけど、俺たちだけが生き残った。神様が俺たちだけを助けてくれたのかもしれない。いつか二人で再生を果たしてくれるだろうと信じて」
そうさ、多分俺たち以外の人間はもう存在しない。……でも、行こう。それでも行くんだ。それが俺たちに与えられた使命ならば。叶えられる奇跡は必ずあるのだと信じて。
俺と彼女は、もう一度だけ顔を見合わせる。ここからは更に過酷な試練が待ち受けているかもしれない。だけど、それでも俺たちは二人で前を向いて扉の向こうの世界へと足を踏み出した。