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吉葉ひろし
吉葉ひろし
novelistID. 32011
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ラブホテルの鍵穴(2)

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酔った客と女は202号室に入った。それから20分ほどすると、フロントに女の声で
「助けて~」
と電話があった。店長は健二に202号室に行くよう指示した。
若い男は健二だけであった。
「まず声をかけて用心しながら失礼のないように」
健二には初めての仕事であった。
ドアをノックした。反応はない。ドアノブをまわして引いたが鍵がかかっていた。
ドア越しにボリュウムいっぱいに音楽が聞こえた。
健二はマスターキーで鍵を開けた。
室内は照明が落とされ暗い。
「失礼します。何かありましたか?」
健二の声に男は初めて気が付いたようだった。
「何しに来たんだ」
男の裸の背中には入れ墨があった。
「助けてください」
女が声を出した。女も全裸であった。両手を浴衣の紐で縛られていた。
「トラブルは困ります」
「俺が買った女だ、何をしようと俺の勝手だ」
「でも、助けてと言ってますから・・」
「俺に逆らうのか」
「僕と部屋を出ますか?」
健二は女に行った。
女は震える声で
「お願いします」
と言った。
「お連れの方がこう言ってますので、これ以上の騒ぎになれば警察にお願いすることになります」
「勝手にしろ」
健二は女が衣服を纏うのを待った。
ほとんどを手に持ち、裸の上にガウンを纏った。
「忘れ物は無いですか」
「はい。これを持ってくれてますか」
女はハンドバックを健二に渡した。
健二は経過を店長に報告した。
「タクシーを呼びましょうか」
と女に訊いたが
「お金がありません」
と女は恥ずかしそうに言った。
「従業員の更衣室で着替えてください」
健二が女に言った。
「ありがとうございます」
女の言葉は柔らかかった。その言葉遣いに健二は魅かれた。
身体を売る女には感じられない何かがあった。
「店長あの方を少しここに置いてください。送り届けます」
「連れの男はやくざかもしれないぞ」
「お願いします」
「店は責任追わないからな」
「解ってます」
女がきちんと着替えてくると、恐怖から解放された気持ちもあるのだろう、笑顔が見えた。
「良ければ僕が送りますが、仕事が終わるのが2時間後です。待てなければ車代くらいならお貸しします」
「助けて頂き、お金をお借りする訳にも行きませんから」
と女は答えた。
202号室がチェックアウトされた。
掃除に入るとビールの缶がテーブルに散らかっていた。
風呂も使ってない。健二は男の気持ちが解る気もした。
しかし、助けを求めた女の気持ちの方がもっと解る。
いくら金を出したとはいえ扱い方があるはずだ。
健二は1時間早退した。
すでに夜の11時を過ぎていた。
「送ります」
女に健二は言った。
「海老原良子です」
女はそう名乗った。
「早川健二です」
「年は幾つに見える」
「40歳前後」
「当たりかな。健二さんは」
「28歳で独身です」
「若い。彼女はいる」
「1人居ますよ」
そこで会話は切れた。
「何か食べましょう」
「今日はお金無いから」
「ぼくが出しますよ」
健二は明け方までやっているレストランに車を止めた。
「今日の客は医者と言ってたのにやくざだったなんて最低」
海老原はそんなことを言い出した。
健二は彼女の過去の事を訊きたくはなかった。
只、今いる時間が楽しい時間であった。
海老原には女を感じた。女を感じる魅力があった。
多分健二が誘えば彼女はいいと言ってくれそうであった。
しかし金で彼女を抱きたくはなかった。それに彼女を抱いてしまえば、今までの行為が何もならない。
店を出て、海老原のアパートに着いた。
「お酒ならあるわよ」
健二は三日月を見た。
「仕事変えたらどうですか」
健二は心の中で言いながら車に乗った。