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吉葉ひろし
吉葉ひろし
novelistID. 32011
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ラブホテルの鍵穴

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健二はパチンコで金を使い果たし、サラ金から借金までしていた。その金は80万円にも膨れ上がっていた。毎月の給料は手取りで20万円位であるが、アパートの家賃が7万円あった。サラ金には毎月5万円ほど返済することになった。残り8万円では遊ぶ金が無い。
彼女との付き合いもある。割り勘にした事はない。そんな所には見栄を張った。
車はシーマに乗っている。ローンは終わったがガソリン代が月3万円はかかる。
健二は28歳になるのに貯金はまるでない。仕事は自動車の修理工である。2級整備士の免許を取得したばかりである。なかなか難しい免許であるだけに、健二は仕事は続けて行く意気込みであった。ところが以前のように仕事は忙しくないのだ。
ガソリンスタンドなどで車検が出来るためもある。パチンコを始めたのも仕事が暇になったからである。
1日働いて1万円ほどなのに、パチンコを始めたころは4時間ほどで5万円の儲けになった。
所が、あとは1時間に1万円のペースで金を使い、損をするときは10万円にもなった。
儲かれば行きたくなり、損をしても行きたくなるほどはまっていた。
そんなわけでどうにもならなくなり、ラブホテルのアルバイトの広告を見て応募した。
明日から来てくれと言われた。
彼女と客で来た事はあったが、まさかこんな所で働くとは夢にも思ってはいなかった。
仕事は客室の清掃である。女性がベット周りであり、男性は風呂掃除であった。
特に毛髪には気を使うようにと指示された。湯船にお湯が入っていると、掃除に時間がかかる。浴室が水滴だらけになってしまうからである。
全ての水滴をふき取らなければならないのだ。時間との戦いである。
もし風呂が使ってなければラッキーと声が出る。
金が必要な事もあり健二はバイトを続けた。
1カ月もすると、いろいろな仕事をする事になった。
車庫に入った車のナンバーを記録したり、集金をしたりである。
フロントに電話が入ると部屋まで集金に行くのである。
ドアには小さな扉があって、そこから金の受け渡しをするのである。扉は20センチ四方くらいである。その扉には簡単な鍵が付いていて、従業員の側から開ける事が出来た。
清算をしてもなかなか帰らない客がいる。何しろすぐに掃除に入らなくてはならないのだ。
客が帰ったかどうかを鍵穴からのぞいて確認するのである。
客室を出ると階段があり、靴箱が見えるのだ。
そんな時客の顔が見えてしまう事もある。そこに有る鏡を見る時である。
部屋でも確かめてきているのだろうが、ほとんどの女性は鏡で身だしなみを確認する。
健二は初めて自分の置かれている立場を感じた。惨めな気持ちであった。
健二の彼女もそんな仕草をしたのを思い出したのである。
男と女の楽しみの後始末。
ここで働く人たち、何か疲れた人たちに感じて来た。
「何してんだ」
店長から怒鳴られた。シーツに陰毛があると電話があった。
ベテランの従業員は心得ていた。部屋代を値切るためにそんないちゃもんをつける客がいるのだ。
無論店長も芝居である。客に聴こえるように言っただけである。
部屋を交換して値段は負けないのである。
するとほとんどの客は面倒くさいからいいと言うのだ。
自転車に乗ってくる高校生。明らかに解る浮気カップル。援助交際。
2時間のドラマ。それからお泊りのドラマ。
それは想像のドラマであるが、ほとんどの客は楽しそうな表情を見せる。
大胆になれることが、気持ちも解放してくれるのかもしれない。
ラブホテルとはそのためのホテルなのである。
健二は何かこの仕事も悪くはないなと感じていた。
鍵穴から見えるのは小さな世界だけれど、あるいは小さな幸せかもしれないけれど、いや苦しみもあるのかもしれないけれど、生きて行く縮図かもしれない。
酔い客が若い女性と車を降りた。ここまではモニターに映るのである。
本当の恋人かもしれないし、売春かもしれない。
健二はただ掃除をしっかりすればいいのだ。客に不愉快な思いをさせないために・・・





作品名:ラブホテルの鍵穴 作家名:吉葉ひろし