アーク_1-1
鳥のように両手を広げたポーズで、これ以上ないくらい楽しそうにユノは言う。太陽のようにまぶしい笑顔、少し、いやかなり鬱陶しい。
「――魔法少女ぉ? ボランティアぁ?」
ベルが疑問の声を上げると、すかさずユノは怪しくもみ手しながら言う。
「ぜ〜んぜん簡単なお仕事よ。経験不要、初心者大歓迎、楽しいスタッフに囲まれた、明るい雰囲気の職場よ♪ 貴女も知っての通り、わらわのような神や天使たちが地上に顕現するためには、魔力ってヤツが必要なんだけれど」
「はぁ」
「その魔力がね〜、ちょっといろんな所に散らばりすぎちゃってぇ」
「へぇ」
「もったいないから、一ヶ所に集めちゃおう、ってお仕事なのよ〜」
「ふーん」
「いわゆるお掃除? みたいな?」
「それで掃除機ですか。へぇ〜え、よかったじゃないですか」
高い高い天井を見上げる。青い空がぼんやりと透けて見えるその先に、鈍く輝く太陽。流れ行く群雲。今日もいい天気である。洗濯物がたんまりたまっていたなぁと、ベルは思い出す。そういえば、牛達の乳を搾っておかなければならないのだった。冬に備えて保存用のチーズをそろそろ作らなければ。やることは山積みだなぁ――。
「……ちょっとあんた。ちゃんと聞いてるのぉ?」
眉とくねらせるユノに、ベルは尋ねた。
「いくらですか」
「へ? 何よぅ、藪から棒に」
「いくらくれますか」
ユノは驚いて目をぱちくりさせた。
「――金銭を要求なさると?」
「私の一番キライな言葉は、ボランティアとただ働きなんです」
ユノはえへんと咳払いした。
「よいですか? ベルちゃん。魔法少女というのは、人々の幸せのために奉仕をする存在なのですよ? 人々の笑顔のために戦う、愛と正義の使者! それがあんた、金よこせってこたぁないでしょうよ。愛と勇気だけが友達なのよ? ラブアンドピースでしょでしょ?」
「ラブアンドピースよりギブアンドテイクでじゃないッスか?」
しれっとベルは言った。
眉毛をピクピク引きつらせるユノ。
「……お仕事を終えた魔法少女にはね、特別にひとつだけお願いを叶えちゃうっていう特典つきなのよ? いいでしょう?」
「え! ほ、ホントですか? ホントになんでも?」
ベルは身を乗り出して聞いた。
「な、なによ」ベルのくいつきに、思わず引いてしまったユノ。「いきりなり目を輝かせちゃって」
「紙幣とか金貨とか宝石とか! なんでもいいんですよねッ!」
目の前に山と積まれた金銀財宝を妄想して、ベルの鼻息は荒くなった。
「金塊一年分とかでもいいんだ! さっすが神さま、気前がいいわぁ!」ベルは元気よく手を上げた。「やりまぁす! わたし、魔法少女やりまぁすッ!」
「え、あー、うん、そ、そうね〜?」
ユノの視線は不自然に宙を舞ったが。
「……ま! そういうことで!」
いつの間にかユノはチアガール姿になって、ボンボンを振り回しながら踊っている。
「GOGO! 魔法少女ベルちゃん! 地球〜防衛〜少女〜ベルちゃ〜ん!」
「あ、でも、もちろん日給は別手当てですよねッ?」
ベルは指折りで計算した。
「首都の平均時給が、え〜っと……」
「まぁ、そこらへんはお付の天使にでも……」
「あ! あと、保険代とかはもちろんそっち持ちですよねっ?」
「……」
「あとはさっきの縄で内出血した分の治療費を――」
「もうっ、早く行きなさいっての!」
ベルはソージキとともに、神殿の外へと放り出された。