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狐の嫁入り。

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『空が晴れているのに雨が降っている時はね、どこかで狐がお嫁さんをもらって、結婚式を挙げているんだよ』
 そんなことを、昔誰かから聞いた気がする。



  ***



「ま、つまりは天気雨なんだけどな」
 ばっさりと私の台詞は切り捨てられた。
「もー、ちょっとロマンチックなのにー」
「ロマンチックとか言うまえに勉強でもしろよ、玉藻。テスト前だぞ」
「うるさいなあ裕也は。わかってるよーだ」
「それと静かに。ここ図書館だぞ」
 裕也にまたそうやって怒られて思わず私は口をふくらませた。
「っていうか、誕生日の明日からテストって、ほんと嫌になっちゃうなー…」
「ご愁傷様」
 それは、誕生日とテストを明日に控えた日のこと。
 私と裕也は幼馴染で、テスト前である今日は図書館に勉強しに来ていた。私は数学ができないが英語が出来る。裕也は数学は出来るけど英語ができない。利害の一致により一緒に勉強することになった。
 クラスメイト達は私達が「付き合ってる」とか「ラブラブ」とか言ってくるけどとんでもない!
 裕也と私は家が隣の腐れ縁なだけだ。小さいころからそれなりに仲が良かったから今もたまに一緒に居るだけで、ほとんど兄弟みたいなものだし。
 なにより裕也は私を「女の子」だと思ってないんだから失礼しちゃうわ。
 ――そんなことはどうでもよくて。
 私は「狐の嫁入り」のことをふと思い出したのは、図書館の窓から外を見た時、ぽつりぽつりと雨が降っていたからだ。
 季節は6月上旬。そろそろ梅雨入り。じめじめとしたこの季節はちょっぴり苦手だけど、綺麗な紫陽花が咲くのが楽しみだなーなんて考えていた。
 そして気付いた。空が晴れているのに、雨が降ってることに。
 それで思い出したのが、いつ誰に聞いたかなんてもうとっくの昔に忘れてしまった「狐の嫁入り」についてだった。
「でもさでもさ、素敵だと思わない? 雨を降らせるのは結婚式を人間に見られたくないからだとかいう説もあるんだよ?」
「はいはい。お前はいつまで経っても夢見がちなところ直らないのな」
「ほっといて。そういう性格なの」
「でもま、結局そんなのいないんだから仕方ないだろ? 結婚式を挙げる狐なんていたら大騒ぎだ」
「――裕也ってほんっと現実主義者だよね…」
「ほっとけ。そういう性格なんだ」
 しばらく言い合っていると、ちらりと周りから寄せられる苦情を言いたげな瞳に私と裕也は口を閉じた。


作品名:狐の嫁入り。 作家名:紅月 紅