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雪は穢れて

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 壊してきた物は、者は、幾ばくか。壊されて恨んだ者は、何百か。
 破壊活動の裏側で、働く者が居る。それは、商人だったり、死体の掃除屋だったり、策略家だったり、……暗殺者だったり。
 ここに一匹の狼が居る。この狼は同胞を何匹も喰らい、何匹も壊し、それでも普通に暮らしている羊にはばれない生活をしていた。ただ、同じ匂いのする狼には、名は知れていて、姿を見るだけで死に神が纏うのではと思わせるくらい、その狼に関わった系列の者は全て消えている。勿論、狼自身が消した者も居るが、中には何故か本人の知らぬうちに死んでいる者も居て、それを聞いた狼たちは、決して名すらも呼ぶまいと思った。
 ……尤も、実際に動物の狼というわけではないが、その殺し屋の名は狼(ろう)というので、狼で比喩してみただけのこと。
 狼は、国認定の殺し屋だった。誰よりも生き血を喰らい、誰よりも影を踏みつけ、誰よりも花を散らした。
 最初から国認定だったわけではないが、狼は殺し屋として、生まれる前からそう育てられてきた。
 なので。

 「狼、君を真雪保護軍の総指揮官、及び総大将と認定する」

 いきなり、保護なんて言葉をかけられては、困るのだ。

 羊や同職を喰らうことしかしなかった、狼が羊を守るなんて、馬鹿げた話、聞いたことがない。

*

 狼はこの日、機嫌は悪くもなく良くもなく。ただ、この青空の下でゆっくりと太陽を浴びて昼寝がしたかった。
 自分の性分で、完全に眠りに陥ることなんて、ないのだが、うたた寝でも良いので、日差しを浴びて、この太陽の愛情に暖まれて、風に軽く嬲られたかった。
 狼はでも、街へ出て街の中心部にある聳え立つ、真っ白な城へと向かっていた。
 狼は、周りの者が副流煙で例えガンになっても素知らぬ顔をしながら、歩きタバコをしていた。
 狼は、国認定の殺し屋。それで、城に向かっているということは、王様がこの獣を呼び出したのだろう。
 正直、面倒だった。
 王の命令を受けるのも、それを実行するのも。
 ただ、それを否定しなければ秘密が漏れると恐れる王が自分を殺すだろう。死ぬのだけは、何だか厭だった。
 大体、殺し一つ、縫い物をするよりかはとても容易くて、それを一つ放り出すだけで死ぬのは、自分にとっては馬鹿らしい話。
 紫煙をはき出し、狼は鋭い目を益々細め、気怠げに歩くのだった。
 人混みは、自分が紛れるのに有利なので、嫌いではないが、こうして自分が目指している場所とは反対方向の流れで歩まれると、その場にいる全員を殺したくなる。
 でも、それは一流の殺し屋とは言えないだろう。
 殺し屋とは、仕事を無感情にこなし、表の人間には、例え吐いた息でさえも気づかれないようにしなければならないのだ。
 軽い殺意を感じながらもそれを他の者に感じさせることはなく、狼はこの城下街を歩いていた。
 「誰かぁ!私のバックが!!」
 自分の向かってる道、目先の方から声が聞こえた。
 自分の持ち物が恐らくスリに遭い、盗まれた哀れな羊の声だ。
 此方に走って駆けてくる狼になりたがっている羊、つまり此方に来る盗人を見ると、自警団が追いかけているのを確認した。
 (嗚呼、間に合わないだろうな、あの距離では)
 ほんの気まぐれだ。
 此方へ来た盗人へ、足を引っかけた。盗人は転倒する。その隙に、別の街の人が捕まえる。
 盗人が文句を言う前に、自分は立ち去った。
 ――こういう時の人混みは、とても好きだ。自分が、見えなくなるし、誰が何をしたのか判らないから。

 だが、それは一人の子羊に見られていた。

 じっと此方をずっと見てくる視線、いつもなら気にならないのだが、一般人としてはそれに気づいて、お愛想の笑みを一つあげるくらいはしなければならないのだろう、多分、行動を見られていた。行動を見ていて、それで自分に注目しているのだろう。
 振り向いて、視線が何処から来ているのか、すぐに目だけを彷徨わせ、確認する。

 向日葵色の癖ッ毛に、幸福の証とされてる赤い目。額には赤い目とお揃いのルビーが埋め込まれていて、手には木で出来た大きな杖、ということは魔法使いといわれる職なのだろうか。
 他の職に疎い狼には、魔法使いの種類など判らなかった。
 ただ、確か額に石が埋め込まれているのが魔法使いの証で、その石の色によって魔力の強さが違うというのは知っていた。
 殺しの依頼は、偶に自分の殺気を察知されるからという理由で、魔力の高い魔法使いが狙われていたからだ。
 魔力の高い魔法使いほど厄介な者は居なくて、自分の策略を交わし、かつ殺気も感じ取り、物理では対抗できない攻撃魔法で抵抗してくる。
 それでも、それを必ず最後には殺している狼の力は、それ以上で。
 (赤い石は、見たこともない。ということは、下級か中級か)
 そんな魔法使いが自分の職に気づくわけがない、だがそれでも一応念のため愛想笑いを浮かべてみると、その魔法使いは近くにいた自分のパーティ――冒険するために組んでいるチームメイト――に、何事か言っている。パーティが何を言ってるかは流石にこの位置から……何メートルもあるこの位置からは聞こえなかったが、その魔法使いの少年は怒っているようで、何か怒ってから、此方を見遣り、苦笑した。それから、ぺこりと頭を下げて、少年は去っていった。

 ……子羊に、行動を見られていたなんて自分はまだ甘いレベルなのだな、もっと修行せねば、とこれ以上強くなる決心をして、狼は紫煙を空に昇らせ、城へと歩みを進めた。

 城へ入れば、城内入場許可書なんてなくても、狼を意味する誰かが書いた絵本の想像上の文字、それが頬に刻まれてるのを見れば、城に仕える誰もが城にはいるのを黙認し、噂話するのも恐れる。近寄るのも、見かけるだけでも恐れる。

 ……ただ、一人を除いては。

 「あ、ろーくん」
「……抹茶(まっちゃ)」

 この城では、否、街でも異質の存在。
 獣人……という、動物にも人にも、そしてそれが混ざった姿にもなれるという種族があって、その動物は様々なのだが、先週騎士の誰かが捕らえたと、此処の王女へ献上された。
 そして、その獣人は抹茶と名付けられ、王女のペットとして飼われることになった。
 その扱いは、表向きは王女が恐くて何も出来ないが、人々の扱いは酷いものだった。
 ツナギの服の下には見えない傷が、山ほどある。青い痣もある。
 人々は獣人が嫌いだった。だから、余計その扱いもあるのだが、表向きは王女のペットだというのでその一般人からは想像も出来ないほどの優遇に、腹が立っているのだろう。
 もし王女の前で彼に何かしたら、首が飛ぶ。
 それを楽しむように、抹茶は偶に王女の「目の前」で、何か失敗をさせる。
 そんな光景を見る度に、狼は、抹茶という人物に得体の知れないものを感じていた。
 だから、狼は抹茶を嫌っていた。関わった方、どちらかが破滅するという予感がしたのだ。
 それなのに、抹茶は狼から微かに染みついている血の臭いを嗅ぎ取り、笑みを浮かべて近づいてくるのだ。
作品名:雪は穢れて 作家名:かぎのえ