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ちょ~短編 スマイルプリキュア! ─はなさかむすめ─

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失う恋、失わない勇気


  
星空家の正式な引越しは金曜の学校から2日後の日曜の朝です。
土曜日の夜だというのに、としはる君は朝から女々しく枕に顔をうずめてばかりです。

無理もありません。昨日のお別れ会で言いたい事が言えなかったからです。
言えなかっただけならまだいいものです。

岩澤しげる君の告白は、ジョークだったのです。
転校のお別れ会、最後に一言という緊迫の場面で異性からの告白なんてドラマチックです。

普段からチャラけたり、ジョークを飛ばすようなムードメーカーであるしげる君なりの、
思い出話にというサプライズに過ぎず、最後はクラスみんなで乾いた笑い声で挨拶に終わりました。

しみったれなく、みんなは凄く満足そうに再会を楽しみにするとお別れができました。

"未来あるハッピーエンド"とでも言えば、聞こえはいいです。
でも、としはる君にとっては最悪な状況です。

あのジョークの後に告白なんてしてみたらどうでしょうか。
世間も言うじゃありませんか。告白はタイミングが肝心だって。




どう考えても、あのタイミングは違いました。




せっかく勇気を搾り出せた瞬間だっただけに、時間が開いた現在は彼の勇気は滅びました。

実はあの後、みゆきちゃんからとしはる君にお声がかかったりもしました。
ここ数日、話しかけてくれなかったとしはる君は自分に対して怒っているのではないかと思ってたのです。
引越しを黙ってた事を謝罪しにきたのですが、としはる君は無意識ながら冷静に対応しました。

「言い辛かったのも仕方ないさ。俺の事はいいから、転校先でもいい友達作って元気でやれよな!」


女々しく枕に顔をうずめて何が悪いのでしょうか。
もしもこんな彼を責め立てるような誰かがいるのならば、それは人じゃないと思います。


……終わった、俺の恋。始まってもいないのに。

あんなにも仲良かったのになぁ…。
あいつのために勇気を振り絞った事のある自分が滑稽で悔しい気持ちになる。

むしろ悔しさを通り越して愛憎にも変わりそうだ。しかし、何度も繰り返すこれまでの過程。
所詮は片思いから始まる八つ当たりで、非は自分にしかなくて怒りのやり場もなくてイライラする。

無意識の中でみゆきちゃんと最後の会話した内容がうっすらと甦ってきます。
「俺はあんな受け答えしたけど……みゆきのやつ、たしか最後に何か言ってたような気がする」

記憶が定かじゃないようです。何か大事な事だったような、そうでもないような。
でも、もはやどうでもよくなってしまいます。
いいんだ。みゆきちゃんの事なんか忘れようとまで自暴自棄の穴に飛び込もうとしています。

なのに、その穴に飛び込もうとする勇気がないのです。こんな時にまでです。

結局また、みゆきちゃんの事となると勇気を出せるかどうかの瀬戸際に立たされています。
けれども、としはる君には今までと違う感じがしていました。

忘れようという勇気が出ない? なんだそれ? どんな勇気だよ。
自分にとって苦い思い出を忘れる勇気なんて「勇気」なんて言わねーよ。

それに……。

としはる君が改めて思い出す記憶の数々。
これらの何処に苦い思い出があるというのだろうか?

思い出すのは、みゆきちゃんと、ふみえちゃんと、そして自分が笑い合う姿ばかりです。
笑いあったあの思い出を無かった事になんかできやしないじゃないか。

忘れようというのは、自分自身どころか彼女達を否定する愚行にも値すると気付きました。
そしてさらに気付いたのです。自暴自棄という穴に飛び込もうとする勇気ではなく、
飛び込もうとしない"勇気"が自身から溢れ出している事に。

みゆきちゃん達と過ごしてきた数年。
彼女がいなくなった今後の生活を想像するだけでも苦しい。

そういった悲しみを乗り越えてこその人間…いや、田牧としはるという男なのだ。
強く、後悔なく生きていかなければ、たった一度きりの人生が勿体無い!!

そう心の再認識を固め、としはる君は机に置いてしばらく放置していた物を鞄に詰めました。