(01) 初恋
教室の中央に座る西田さんを好きになったのは、二学期に入ったばかりの頃だった。それまで恋というものがうまく理解できなかった俺にとって、それは衝撃だった。これまで普通に〝友人〟として接していた西田さんが、いつもとは違うように見えた。別に何かあったわけではない。でもそのときから、西田さんは〝特別な存在〟になった。
西田さんはクラスの皆から信頼を受ける人気者、それに対して俺は内気な小心者だ。告白なんて俺にはできやしないと思っていた。そのくせ「メールで告白なんて絶対におかしい。直接言葉をぶつけてこそ告白だ」と生意気な口を叩く。
ある日、友人がメールで告白して玉砕した。話を聞いた途端、いつものように、メール告白を非難する。それで俺は高飛車だった。倫理あるクリティシャンを演じる俺は、非難されるはずがない。正論には違いないのだから。
ところが彼は、食って掛かってきたのだ。
「じゃあおまえ、やってみろよ」
そんな反論、予想していなかった。考えが甘かった。言葉が出てこない。
「やってやろうじゃないか」
失敗した……。こんな軽々しく宣言するんじゃなかった……。そんな内心も露知らず、友人たちは「よく言った!」と拍手を送りつけてくる。どうしようか……。
とりあえず、はぐらかし続けて、宣言から二カ月は延ばすことができた。しかし、彼らからの催促が日に日に増すなかで、俺もそろそろ決心をつけなければならないと思うようになった。西田さんが通り過ぎるたびに、「あっ……」と呼びかけようとしてはその言葉を呑む。今日こそは、今日こそは、と決意が脆く崩れてしまう毎日が続いた。
西田さんは待ち合わせの場所に、約束の時間の少し前に来てくれた。宣言から七十五日目。遂に、〝呼び出し〟のメールを送った。お互い、中学三年にもなれば、急に用件も書かずメールが来れば、そういう展開になることぐらい察しがついている。
「ありがとう、来てくれて」
「ううん」
話が続かない。もう言ってしまおうか。
「あの……」
* * *
「ダメだった……」
「何が?」
「告白したんだよ……」
「えっ? お前、好きなヤツいたの?」
すっかり、あの挑発を彼は忘れていたらしい。さすがに、「お前が食って掛かってきたからだろ!」と言いたくはなったが、心の中に抑えることにした。そんなことで彼を批判するのが馬鹿馬鹿しい。
彼には「お前忘れたのかよ」と軽く受け答え、そのまま事のすべてを話した。
フラれてからというもの、俺の心は晴れている。