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ゴウヤクと愉快な仲間達 日常の出来事1

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<<一振りの剣を>>

 『炎の英雄』と呼ばれる人物が歴史上存在する。
 もとは炎の部族、特に『炎の街(都)』で暮らす人々での呼び名だったが、その偉業や神秘性などから現在では世界(大陸)を通して多くの人が知っている。
 『炎の英雄』で伝わっていることは少ない。
 まず、『呪われし血族』の少年だったという。少女という説もある。
 真紅の瞳、黒髪で黒衣に黒い外套を纏い一振りの剣を持っていたという。
 容姿に関しても赤が黒と入れ替わっていたり曖昧だが、炎の部族らしい外見をしていたということらしい。
 その成し遂げた偉業というのは、一言で言えば『世界を救った』という大規模なこと。


「で、炎の英雄の性別って?」
 なんとなくゴウヤクの話を聞いていると、そのあたりをぼかしているように感じたので改めて無王は聞いてみた。
 リアルタイムでその存在は知っていたが、そんな事件が有ったことやそんな人物がいたことしかしらない。
 当時知っていたかもしれないが、とっくに埋もれてしまった。
 そんな無王の発言に、ちょっと驚いたような困ったような顔をしてゴウヤクは微笑んだ。
「どちらか一方であることは確かですが、歴史に埋もれた謎の答えを安易に教えてしまうほど私は無粋ではありませんよ」
「いや、無粋っていうか…」
 別に人間でも無いしそんなことはどうでも良いのではないかと思うのだが、ゴウヤクやゴウヤクで何か教えたくない理由でも有るらしいことは分かった。
「私があの子を愛していることは理解してください。いまだ長い道のりを歩んでいる最中なのです」
 ゴウヤクの子が置かれている立場も簡単に聞いている。
 この先未来に来るであろう『運命の日』の駒と成るべく、無王やゴウヤク達とは違う法則で転生を繰り返している。
 また『炎の英雄』としてこの世の現れるかもしれないが、その時どんな身の上になっているかは分からない。
 ゴウヤクと共にいる限り、いつかゴウヤクの子『炎の英雄』にも会えると感じてはいた。
 ただ、ゴウヤクは本当に自分の子を愛しているらしい。無王と接触させたくないと言い出すかもしれないが…
 あと、いつからなのか。ゴウヤクが自分の子を愛しているという慈愛に満ちたまなざしで語るのを聞くと、少し胸が痛んだ。
 そもそも、ゴウヤクが地上にいる理由の一つとして探し人がある。
 それを思うとゴウヤクが『炎の英雄』を語るとき以上のはっきりした感情がわきあがるのが自分でも分かった。
 ムカムカする、イライラする。
「無王、無王」
 思索にふけりそうだった無王をゴウヤクの声が引き戻す。
「多分、そのイライラの原因の一つは先日壊れた剣にもよると思うんですが」
「…?」
 突然の言葉に首を傾げそうになる。
 確かに先日無王は一振りの剣を壊してしまった。
 真っ二つに割れてしまった。
 使用対象によってはすぐにこれだ。
 しかもどうやら『異獣』の体液はモノによって剣を腐食させやすいらしい。
 次を探さなければいけないと思うと面倒でもある。
「私が剣を打ちましょうか」
「!」
 素直に嬉しいと思った。
「”『炎の英雄』には剣を打ってやったんだよな”って言ってましたよね」
 …以前愚痴っぽく言ってしまったかもしれない。
 炎の英雄が持っていた一振りの剣というのは、炎の英雄自身とその父(ゴウヤク)が共に打ったもので特殊な力を持っていたという。実際は強度だけらしいが。
 現在『炎の街』の宝物庫に保管されているらしいという話を先日ゴウヤクとした。
「こう剣が壊れてばかりではお金もかかりますし、面倒でしょう。貴方に合いそうな剣を、貴方が宜しければ打ちますよ」
「お願いする!」
 呼吸もおかず即答。
 ゴウヤクは笑顔で
「では打たせてもらいます」

 これが年数がかかる話だとは無王は思っても見なかったが、出来上がった剣は其の後無王にとって無二の剣となった。








<<別れ方は様々。>>

 無王とゴウヤクは転生を繰り返しこの世に存在している。
 しかし、一緒に生まれて一緒に死ぬわけではない。
 そもそも二人は寿命の違う身なのでズレは多々あった。
 無王は『束縛無き民』の肉体を使っている。
 その寿命は地域や民族によりけりだが70歳で長い方だった。
 それに対してゴウヤクは『炎の部族』でも特殊な『呪われし血族』の肉体をもっていた。もっと言えば、自分の子孫の体になる。このあたりの詳細な理由は分からないが、血は薄くても相性があるのだろうか。
 ただ、特に無王に関しては旅をして生きているということから肉体を若く保つ術を行使していた。故の反動なのか50歳ほどで肉体的に生きられなくなることもあった。かといって現在までの最高齢は100を越えたほどまで生きたこともある。
 とにもかくにも、生まれも成長老化速度も違う二人は当然死ぬタイミングも別だった。


「そろそろ…だな」
 数日前まで壮年の姿をしていた無王は、急激に年を取り布団上へ起き上がることさえも出来ないほど無残な状況だった。
 そんな無王の傍に幼い少年が座っている。
 少年の姿のゴウヤクは、相変わらずの微笑を浮かべていた。
「今回も色々大変なこともありましたけれど、ご苦労様でした。早くこの剣を預けたいので、早く私の前に現れてくださいね」
 壁に立てかけてある自分の身の丈よりも長い剣を示す。
 余りの大きさ重たさに盗もうとしたものさえギブアップするのだが、ゴウヤクは軽々と持ち上げることが出来た。
 それはその剣を作ったのがゴウヤクで、ゴウヤクと無王であれば重さを殆ど感じないように出来ているからだった。
 通常盗むのも一苦労だろう。
 盗めたとしても鋳直すことも出来ないものだから価値も無いと思われる。
「あぁ…ゴウヤク…」
 しわの寄った手で、ゴウヤクのつややかな手に触れようと思うも思うように手が動かない。
 察したゴウヤクが手をとってやっと触れることが出来た。
 『炎の部族』故に、通常の人間より体温が高い。
「ありがとう…」
 ただうなづいて返す。
「…愛してる…」
 それにはちょっとびっくりした。
「無王?」
 まさか今際の際にそんなことを言われるとは思わなくて思わず声をかけるが
「……」
 無王の目蓋は既に閉じられて、開くことも二度となさそうだった。
「無王」
 もう一度声をかけるが返答は無い。
 呼吸も止まっている事を確かめる。
 ゴウヤクは一つ息をついて、まだ温かい手を下ろす。
「お疲れ様でした」
 例え再び会えるのだと分かっていても、この肉体が起き上がることは二度とない。
 寂しさを感じるのは否めなかった。

 言い逃げされたような言葉は、幾度か言われたことも有るしわかってはいたが、まさかこんな状況で言われるとは思わなかった。
 次に会ったときに笑いながら聞いてみようと思い、ゴウヤクは立ち上がった。