ロッキーとエイドリアン
【無制限に減量できる新薬を試験的に無料で提供します。】
朝、会社に出社しPCを立ち上げメールを読み込むと、こんな件名のメールが俺の
目を引いた。俺のあだ名は「妊婦」。そう、まるで妊婦の様に張り出した俺の腹
を見りゃ、誰だってそんなあだ名を付けたくもなるさ。
給湯室で、女の子達が、俺の事をそう呼んでいたって、同僚の山口が教えてくれ
たけど、そういう事は教えないって言うのがエチケットってもんだぜ。いくら自
分がスタイル抜群のモテ男だからって、まったく嫌味な奴だぜ。
(ふん! くだらねぇ。)
俺は、そのメールを見ることもなく、削除のアイコンをクリックして消去した。
「痩せましたね」って言われた事は過去一度だけ、インド出張で腹を壊して帰っ
た時にあったが、「痩せてますね」って言われた事は、生まれてこの方、一度も
無かった筋金入りのデブさ。今までだって良いと言われるものは何だって試して
きたさ。それでもリバウンドさえしなかったぜ。だって、リバウンドっていうの
は、一度痩せてからなるもんだろう。俺には「リバウンドしちゃったよ」ってセ
リフすら言う権利がないんだ。
「一段と大きくなりましたね。もう臨月ですか?」
なんて気の利いた冗談を皆の前で言われ、いつも笑いを取って皆を喜ばせる人気
者の後輩、松坂にさえも馬鹿にされる始末。身長も低いし、最近は寄る年波にも
勝てず、頭もかなり薄くなってきた。もうすぐ、「チビ、デブ、ハゲ」のグラン
ドスラムを達成しそうな勢いだぜ。
昼休み、社員食堂で俺は飲み込むように大盛りカレーをかき込み、自分の席に戻
って日課にしている食後の昼寝を楽しもうと大急ぎで席に戻った。目を閉じて至
福の時を満喫するのだ。中庭できゃっきゃとバレーをやってる奴の気がしれねぇぜ。
【無制限に減量できる新薬を試験的に無料で提供します。】
脳裏にこの言葉が浮かぶ。一体どんな内容だったのだろう。最近ダイレクトメー
ルが増えたが、あれは誰が送る人を選んでいるんだろう。俺が旅行に興味を持っ
た時には格安旅行のメール、ラジコンに夢中になった時はプレミアの付くレアな
ラジコン機の紹介メールなど、実にタイムリーなメールが飛んできやがる。
気になって寝られなくなった俺は、メールの「削除済み」フォルダーから、その
メールを選び、クリックした。中にはこんな事が書かれていた。
この度、弊社は飲む毎に確実に体重を減らす究極の新薬を開発いたしました。
これまで弊社では、飲む毎に確実に体重を増やす薬を1錠100万円で販売し
て来ましたが、ニーズが少なく、業績が伸びずに倒産の危機に直面しており
ました。
しかし、発想の転換で、起死回生の新薬の開発に成功したのです!
ただ、現在のところ、臨床データが不足しており、多くの結果を得るため、
お客様に対しては特別に無料にてご提供させていただきます。
本製品に関しましては、お客様は永久に無料にて必要なときに必要な分だけ
ご提供させていただきますので、なにとぞご協力の程、
よろしくお願いいたします。 ○○製薬
バカか、この会社は。最初に太る薬を開発するなんて、世の中のニーズを知らな
過ぎる。しかも1錠100万なんて誰が買うか。拒食症とか摂食障害の薬として
は使えるかも知れないが、それにしても高すぎるし、市場が小さすぎる。そりゃ
倒産しそうになるわな。
それに、永久に無料だと?しかも必要なときに必要な分くれるってか。それじゃ
あ、俺がもし大量にタダで仕入れて、他に転売したらどうするんだろうね。そん
な事も考えずにこんな約束して大丈夫なのか?この会社。
それでも俺は、無料という言葉と無制限に減量できるという言葉に魅力を感じ申
し込む事にした。まぁ、ダメもとって奴だな。
数日後、それは小さな小包に入って届けられた。中には赤いカプセルが5錠、
それと、使用上の注意書きが1枚入っていた。それにはこう書かれていた。
この度は、新薬の臨床試験へのご協力ありがとうございます。
このカプセルは1日に1錠、お休みになる直前にお飲みください。
服用後、異常な発汗があったり、体が熱く感じたりしますが、
それは代謝が上がっている事ですので、気にしないでください。
カプセル1錠で1日10kgの減量を行います。
ご希望の体重になったら速やかに使用を中止し、くれぐれも過剰摂取
せぬ様ご注意ください。
朝、会社に出社しPCを立ち上げメールを読み込むと、こんな件名のメールが俺の
目を引いた。俺のあだ名は「妊婦」。そう、まるで妊婦の様に張り出した俺の腹
を見りゃ、誰だってそんなあだ名を付けたくもなるさ。
給湯室で、女の子達が、俺の事をそう呼んでいたって、同僚の山口が教えてくれ
たけど、そういう事は教えないって言うのがエチケットってもんだぜ。いくら自
分がスタイル抜群のモテ男だからって、まったく嫌味な奴だぜ。
(ふん! くだらねぇ。)
俺は、そのメールを見ることもなく、削除のアイコンをクリックして消去した。
「痩せましたね」って言われた事は過去一度だけ、インド出張で腹を壊して帰っ
た時にあったが、「痩せてますね」って言われた事は、生まれてこの方、一度も
無かった筋金入りのデブさ。今までだって良いと言われるものは何だって試して
きたさ。それでもリバウンドさえしなかったぜ。だって、リバウンドっていうの
は、一度痩せてからなるもんだろう。俺には「リバウンドしちゃったよ」ってセ
リフすら言う権利がないんだ。
「一段と大きくなりましたね。もう臨月ですか?」
なんて気の利いた冗談を皆の前で言われ、いつも笑いを取って皆を喜ばせる人気
者の後輩、松坂にさえも馬鹿にされる始末。身長も低いし、最近は寄る年波にも
勝てず、頭もかなり薄くなってきた。もうすぐ、「チビ、デブ、ハゲ」のグラン
ドスラムを達成しそうな勢いだぜ。
昼休み、社員食堂で俺は飲み込むように大盛りカレーをかき込み、自分の席に戻
って日課にしている食後の昼寝を楽しもうと大急ぎで席に戻った。目を閉じて至
福の時を満喫するのだ。中庭できゃっきゃとバレーをやってる奴の気がしれねぇぜ。
【無制限に減量できる新薬を試験的に無料で提供します。】
脳裏にこの言葉が浮かぶ。一体どんな内容だったのだろう。最近ダイレクトメー
ルが増えたが、あれは誰が送る人を選んでいるんだろう。俺が旅行に興味を持っ
た時には格安旅行のメール、ラジコンに夢中になった時はプレミアの付くレアな
ラジコン機の紹介メールなど、実にタイムリーなメールが飛んできやがる。
気になって寝られなくなった俺は、メールの「削除済み」フォルダーから、その
メールを選び、クリックした。中にはこんな事が書かれていた。
この度、弊社は飲む毎に確実に体重を減らす究極の新薬を開発いたしました。
これまで弊社では、飲む毎に確実に体重を増やす薬を1錠100万円で販売し
て来ましたが、ニーズが少なく、業績が伸びずに倒産の危機に直面しており
ました。
しかし、発想の転換で、起死回生の新薬の開発に成功したのです!
ただ、現在のところ、臨床データが不足しており、多くの結果を得るため、
お客様に対しては特別に無料にてご提供させていただきます。
本製品に関しましては、お客様は永久に無料にて必要なときに必要な分だけ
ご提供させていただきますので、なにとぞご協力の程、
よろしくお願いいたします。 ○○製薬
バカか、この会社は。最初に太る薬を開発するなんて、世の中のニーズを知らな
過ぎる。しかも1錠100万なんて誰が買うか。拒食症とか摂食障害の薬として
は使えるかも知れないが、それにしても高すぎるし、市場が小さすぎる。そりゃ
倒産しそうになるわな。
それに、永久に無料だと?しかも必要なときに必要な分くれるってか。それじゃ
あ、俺がもし大量にタダで仕入れて、他に転売したらどうするんだろうね。そん
な事も考えずにこんな約束して大丈夫なのか?この会社。
それでも俺は、無料という言葉と無制限に減量できるという言葉に魅力を感じ申
し込む事にした。まぁ、ダメもとって奴だな。
数日後、それは小さな小包に入って届けられた。中には赤いカプセルが5錠、
それと、使用上の注意書きが1枚入っていた。それにはこう書かれていた。
この度は、新薬の臨床試験へのご協力ありがとうございます。
このカプセルは1日に1錠、お休みになる直前にお飲みください。
服用後、異常な発汗があったり、体が熱く感じたりしますが、
それは代謝が上がっている事ですので、気にしないでください。
カプセル1錠で1日10kgの減量を行います。
ご希望の体重になったら速やかに使用を中止し、くれぐれも過剰摂取
せぬ様ご注意ください。
作品名:ロッキーとエイドリアン 作家名:ohmysky