苦笑
遠い街のなんとなく懐かしい景色は脇の車窓を前から後ろへ流れていく。
こんな場所にはいないというのに探してしまう。
「なんてこんなにバカなのだろう」
バックミラーを見ながら苦笑してしまった。
僅かな希望さえ自分の手で投げ捨ててしまったのに、
わかりきった答えしか無いはずなのに。
無意味に高い鉄塔がキラリと夕日を照り返して、疲れきった目を刺激する。
急に喉が渇いて缶コーヒーに手を伸ばす。もう空になっている。
なにかが欲しい。音でいい。
ラジオの電源を入れる。ザザッと異音がする。にこやかな男性の声がする。
「忙しい時にこそ本来の自分を晒すのです」
といろんな例を出しながら語りだした。
イライラしたりジタバタする自分を卑下しなら言葉を纏めていく。
「そうなら、俺は過去ばかり振りかえる奴なんだな」
確かにそうだ。人生とは過去の集積である。結果よりも経過だと信じたい自分もいる。
いつの間にか車のスピードが上がっていた。
真っ直ぐな代わり映えのしない国道は独自のスピードで流れ、
規定速度は守られてはいない。でもそれは間違いではない。それでいいのだ。
そうだ、人には速度がある。人生の速度は人それぞれなのだ。
離れていくのに、追わない自分。それは間違いなのではない。
遠い街の夕暮れに山の稜線がジンワリと赤く染まる。
なにかしら懐かしい心景にふと切ない気持ちになる。
「ダメです。あなたが愛しくてたまりません」
言葉が無意識に口から吐き出た。
そんな自分に笑いが止まらなかった。