小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
おやまのポンポコリン
おやまのポンポコリン
novelistID. 129
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

離婚の対価

INDEX|1ページ/1ページ|

 
【 離婚の対価 】


 国際便が届いたと思ったら、一年前に離婚したパメラからのものだった。
 こちらとしては円満離婚のつもりだったが、彼女は納得していなかったらしい。
 彼女の国の裁判所で慰謝料の請求手続きをしていたようだ。

 そういえば、もう一度ガルチアに来いとか言っていた。
 まさか裁判とは思わなかったので無視したが、それがいけなかった。

 俺が欠席のまま裁判は行われ、そして結審した。
 慰謝料100万ズラクマが決定となり、それを俺が払わないといけないそうだ。
 ちなみにガルチアはユーロ圏を離脱したばかり。100万ユーロと同額だから、約9800万円ということになる。

「ハハ、円高で良かったね。って払えるかこんな額!」
 俺は一人でボケ突っ込みをしたが、冗談を言っている場合ではなかった。
 なんとガルチアは物価も上がって生活が大変だから、全額を半年以内に払えと言う。
 
 俺は生まれて始めて弁護士事務所に駆け込んだ。


「あ、これはまずいですねえ。すでに異議申し立ての期間も過ぎている。もし払わないと逮捕されちゃいますよ」
 30分7千円の弁護士はひとごとだと思って、涼しい顔で言った。

「俺が一生ガルチアにいかなきゃ、払わなくてもいいんじゃないか?」
「ガルチアとの間には犯罪人引き渡し条約があるので、日本の警察に逮捕され、引き渡される可能性が高いですね」
 弁護士はパソコンから資料をプリントアウトして見せた。

「慰謝料を払わないくらいで犯罪人かよ」
「国によって感覚が違うんですよ。例えばアメリカでは日本人の母親が親権のない自分の子供を連れて帰国しただけで国際手配されたりします」
「初めから払えない額なのに、払わないとムショ行きってか?」
「ですね。でもそれは避けた方がいい。あの国の刑務所は劣悪な環境だそうです」
「それは嫌だな」
「あ、でも東洋人は大丈夫かもしれません。BL(ボーイズラブ)の対象だそうですよ」
「もっと嫌だな」

「とりあえずパメラさんに電話してまけてもらったらどうでしょう」
 弁護士はこんなつまらない結論を出して、俺に2万1千円を請求した。
 確かに、最初からそうすべきだったのかもしれない。

 苦痛だったが、ここは我慢。
 俺はとっくに愛の冷めている女に愛をささやき、健康を気遣ってみせた。
 すると、パメラもこちらの健康を気遣ってくれたではないか。
 俺はここぞとばかりに、「金がないから1万ズラクマにまけてくれないか」と言ってみた。
 だが、帰って来た答えはドライなもの。
「嫌!」だった。
 結局、全ての財産を売り払って送金し、破産宣告すれば許してやると言われたが、そんなことをしたら俺の人生は終わってしまう。

 なんとか日本で別の裁判を起こして逆転判決を出せないだろうか。
 審議に違法性があったとしてガルチア当局に訴える事は出来ないものか。
 色々あたっている間に、数カ月が過ぎた。

 こうなりゃ、やはり和解訴訟でも起こして財産分割で済むようにしてもらおう。
 そう思いながらなにげなくテレビを見ていると、俺にとって朗報が飛び込んできた。

 ユーロ圏を離脱したガルチアの通貨が売られ、安くなっていると言う。
 そういえばパメラも「このところ物価が高くなっている」と言ってたっけ。

 とはいえ、9800万円が例え9500万円になっていたとしても大差ないが・・・と、思いつつテレビ画面を見ると、驚くべき事態になっていた。
 慰謝料の請求書を受け取った数カ月前には9800万円だった100万ズラクマが、ハイパーインフレで暴落し、なんと俺にも払えるレートになっていたのだ。

 俺はその足で銀行に行くと、ガルチア通貨・100万ズラクマ、日本円にして3万6千円(!)を、別れた妻パメラに振り込むと同時に、あまり気の毒なので彼女が日本にいた頃好きだったパック入り牛丼セットもついでに送っておいた。


       (おしまい )