小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

古びた手袋を身に付けて

INDEX|1ページ/4ページ|

次のページ
 
 子供の頃、俺はいわゆる「戦隊ヒーロー」が大嫌いだった。育った環境だけが原因ではなく、暴力に対して暴力で立ち向かっている姿にスマートさを感じなかったからだ。悪い事をしたとしても、怪物を爆発させて殺す事に疑問を抱いていた。
「悪なんかに負けない、正義は必ず勝つんだ!!」
 よく言えたもんだよ、「正義」という看板を掲げて好き勝手な事ばかりしているくせに……。

 【  古びた手袋を身に付けて  】

 親父が死んで二回目の夏になろうとしていた、あの時と同じ様に、絡みつくほどの嫌な暑さの始まりだ。
 迷う事無く進んできた夢への道は、親父の死に直面して「恐怖感」に取り付かれてしまった。「諦める」と言うより「逃げる」に近い精神状態だった。
 大学を卒業して就職して、そしてありふれた家庭を築いて……。そんな甘い考えで将来を安易に計算していた俺には、今の世間はあまりにも厳しかった。 
 いろいろと考えていたが、結局は俺にはこの道しかなかったのだ。何も考えず就職を探したり闇雲に恐怖感を振り払うより、俺は親父の後を継ぐ事を決めた。
「お袋。俺……、あいつらと戦うよ」
 そう決意した夜にお袋に告げると、目に涙をためながら、小さい頃によく見せてくれた優しい笑顔で「ありがとう」と言ってくれた。そして、大事に取っておいたという古びた手袋を出してきた。
「これ、親父の……」
「お前のお父さんはね、二十五年間戦闘員やっててね。正義の味方さんから年賀状もらうくらい、み〜んなに愛されてたんだよ。でもね、そんなお父さんでも、やっぱり偉くなって怪人になりたい、怪人になって隆志にいい所見せたい、そういつも言ってたんだよ」
「親父……」
「隆志、戦闘員になるって大変な事だよ。でもね、お父さんがいつも見守ってるから、がんばるんだよ」
「ああ、分かった。俺、親父のためにも立派な戦闘員、そして怪人になるよ」
 古びた手袋は傷だらけだったが、その日から俺にはかかせないマストアイテムとなった。


 中途採用試験は思いのほか簡単だった。
 午前中の筆記試験や午後の実技試験でも、俺は他の受験者を凌ぐほどだ。いつも親父の自主トレに付き合わされていた俺は、基礎体力、適応能力とも、すでに即戦力と言われるだけの結果を示していた。
「西野さんの息子さん、だよね?」
 試験終了後、試験官だった怪人の一人が俺に声をかけて来た。
「はい……」
「戦闘員時代に、君のお父様には大変お世話になってね。今の自分があるのは君のお父様のおかげだと言っても過言ではない程だ。ところで君のお父様は今、どこに配属になっているのかな?」
「親父は一昨年、ヤドカリ戦隊コンドミニアムのグリーンに……」
「そうだったか……、それは惜しい戦闘員を亡くした。君も、お父様の意思を受け継いで、立派な戦闘員になるんだよ」
「ありがとうございます……、えっと」
「怪人コガネムシだよ、早く一緒に戦える日が来るといいね」
「ハイッ」
 怪人コガネムシさんは、俺の古びた手袋に気付いたのか、握手をした後に一言「似合ってるよ」と言ってくれた。


 試験後すぐに採用通知が届いた。お袋ときたら近所中に「ウチの息子が戦闘員に受かったんです」などと自慢していた。しかし三丁目の加藤さん家だけは、旦那さんがヒーロー戦隊に勤めているので喜んではくれなかった。
「今日から配属となりました、西野隆志です。よろしくお願いします」
 秘密基地兼寮であるアパートに俺の声が響く。配属先が決まって、初めて実家を出て暮らす事となった。ここの先輩方はとってもいい人ばかりだ。
「お前か、西野さんとこのせがれは。がんばれよ」
 どこに行っても親父の影が見える、その事が俺を勇気付けてくれた。



「ザコは引っ込んでろ!」
 今日は怪人イカゲソキングさんのお供に付いた。イカゲソキングさんは市内の回転寿司屋からゲソだけを集めるお仕事をされている。こんな仲間を思う気持ちに満ち溢れているお仕事を、事もあろうか七色戦隊レインボン達が邪魔をしてきた。
「お前ら、正義の味方とかいって七人も揃わないと戦えないのか!」
 そう叫んだ先輩戦闘員の武田さんが瞬殺された、改めて現場の厳しさを知った。
「おいルーキー、最近成績いいらしいな。お前、がんばってみるか?」
 イカゲソキングさんが俺にそう問いかけて来た。
「イーッ」
 俺はまだ下っ端の戦闘員だ、そう答えるしかなかった。
 しかし心の底からの「イーッ」に、イカゲソキングさんは笑顔を見せてくれた。
「よしお前ら、痛めつけてやれーーーっ」
 そのイカゲソキングさんの掛け声で戦闘が開始された。俺はいつの間にか気を失っていたが、その戦いは我々が一旦引く事で幕を閉じたそうだ。


「よう西野、お疲れちゃ〜ん」
 戦闘員リーダーの上田さんが、冷たい缶コーヒーを頬に押し当ててきた、俺はその冷たさに驚いて目を覚ます。
「最近お前がんばってるな、関心すんよ」
「いや、俺なんかまだまだですよ。今日も気付いたらノされてましたから」
「あいつら、虹色マンだっけ? 帰り際にな、お前の名前を聞いてきたぞ」
「俺の?」
「なんか『元気なヤツがいるな、いずれ怪人となって戦うのが恐ろしいくらいだ』って言ってなぁ。今のうちから目付けられたな」
「よっぽど嫌われたんですかね、俺」
 リーダーはハハハッと笑って、俺の背中をポンと軽く叩いた。
「それとな、これ。奴らが持って来てくれたよ。大事なんやろ、無くすなよ」
 そう言うと、俺の右の手袋を渡してくれた。
「あいつらが……」
「楽しみにしてるぞ、だとよ。あいつらからの伝言」
「ありがとうございます」
「俺に言うな……って言っても、あいつらにも言うなよ、礼なんて」
「ですね」
 古びた手袋は、以前より少しだけであるが傷ついていた、俺が親父に追いつくために付けた、俺の勲章だ。
「リーダー」
「ん?」
「明日、また戦闘ありますよね。俺、先発やらせてください」
「なんだよ、熱いなお前。早死にするのはノンキャリ組でいいんだよ」
「でもリーダー……」
「お前は大学出やしキャリア組やし、ワシら戦闘員のホープや。やっとこの基地から怪人が出るかもって人材や。今はじっくり戦って、怪人さん達に認めてもらえ」
「……ハイッ」
「明日も早ぇぞ、さっさと寝ろ」
 リーダーの声は、どこか希望に満ち溢れている様にも聞こえた。俺を認めてくれている人がいる、そう思うと力強くなれる気がしてきた。
『親父、俺は立派な怪人になる。だから見守っていてくれ』



 朝のニュースで、ブラックモンキー団の優勢を知った。

 新しい人事も発表され、あの怪人コガネムシさんが現場監督、兼怪人(以下「プレイングモンスター」)となって、早速都内の公民館や公園を次々と制圧しているようだ。
「やっぱスゲェよ、コガネムシさんは。オレもコガネムシさんの下で戦いてぇよ」
 同僚からそんな声を聞いた。そんなに偉い人だったんだ、コガネムシさんって。


「西野、昇級試験がんばれよ」
作品名:古びた手袋を身に付けて 作家名:みゅぐ