ご不用となった…
「……ご家庭内でご不用となりましたテレビ、パソコン、ラジカセ、コンポなど、どんなものでもお引き取りいたします……」
昼下がりの住宅街。スピーカーから流れる男の無遠慮な声が、その静寂を押しつぶすようにして近づいてくる。
「うるさいわねえ」
私はコーヒーカップに湯を注ぎながら、隣室でやっと昼寝を始めた義父が目を覚ましやしないかと気をもんだ。小学一年生の息子が帰ってくるまでの間、呆けた義父にはなんとしても眠っていてもらわなくてはならない。一日のうちの貴重で平和な私だけの時間を、あんな騒音のせいで台無しにされてたまるものか。
私は隣室にそっと駆け込み、開け放たれた窓を閉めた。
「……片付けもののご予定がおありの方は、後日あらためておうかがいいたします……」
多少の遮音効果はあるものの、迷惑な声は徐々に大きくなって迫ってくる。さいわい、義父の寝息のリズムに乱れはないが。
だいたい、あんなふうにして住宅街を回ったところで、一体どれほど声がかかるのだろう。実際に「お引き取り」している場面を、私は一度も見たことがない。
野蛮な声がまさに部屋の前の通りを行き過ぎようとしたとき、義父が不快そうに寝返りを打った。
早く行ってくれ〜。
私が心の中で悲痛な叫びをあげたのとほぼ同時に、スピーカーの声が言った。
「……本日はスペシャルデーとして、ご家庭内でご不用となりました老人、亭主、子供などもお引き取りいたしております。どうぞ、お気軽にお声をおかけください……」
それはありがたい!
私は窓をガラリと開け、通りを行く軽トラに向かって両手をふった。
「お願いしまーす!」
荷台には、ご不用となったらしい老人や亭主、子供たちが、みな一様にうなだれて、テレビやパソコンたちと一緒にロープでくくりつけられていた。