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郷田三郎(G3)
郷田三郎(G3)
novelistID. 29622
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UFOの夜

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<UFOの夜>

 マリは急いでいた。
『うわぁ、ヤバーイ!!!』
 都心でOLをしているマリは今夜も遅くまで資料作りを行っていたのだ。
 時計はとうに二十二時をまわっている。

 真冬の突き刺すように冷たい空気の中。
 いつもは軽やかに走る愛用のシティサイクルのペダルも、今夜はやけに重く感じられた。
 夜空ではオリオン座がキラキラと瞬きながらゆっくりとマリの後をついて来ていた。

 マリが急いでいるのは別に観たいTV番組があるからではない。
 第一、今夜から三日間は夜間のTV放送は無いのだ。
 そして、もうすぐサイレンが鳴り渡る。
 何としてでもその前に家に帰りつかなければ――。

 昨夜、帰宅したのも同じ時間帯だった。
 一人暮らしだが、電灯が点けっぱなしのマンションでは相棒のロボット犬がマリの帰りを出迎えてくれる。
 本当は生きているペットを飼いたいのだが、現在では全ての動物のペットとしての飼育が禁止されているので仕方が無い。
 メンテナンスの負荷を軽減する為にペットロボットの餌を自動で与える装置もあるが、マリは自分で与えるのが好きだった。
 子供の頃には家では生きている犬を飼っており、兄とどちらが餌を与えるかでよく言い争いをしたものである。

 餌は、フューエルバッテリー用のリキッドを給餌用の皿に注いでやるのだが、この頃は以前の様に燃料臭いものは無く、フルーツの香りや様々な料理の香りを持った製品もある。
 マリはミルクの香りに少しだけバニラを利かせたものを与えていた。

 夕べは相棒に餌を与えた後、最近ハマっているオンラインゲームに参加した。
 3Dのバーチャル世界をさまよいながら、世界の謎と様々な財宝を集めてまわるのだ。
 素晴らしい映像と音響、そして他の参加者を出し抜く爽快感がこれまでのゲームとは一線を画すと言って良い出来で、マリの会社の同僚にもハマっている者が多かった。

 だが、夕べはやるべきでなかった。
 途中で寝てしまったのだ。
 幸い夜明け前に気が付いてシャワーを浴びた後、急いで飛び出したが、PCの電源を刺しっぱなしにしてしまった……。

 そんな訳で急いでいるマリであったが、マンションまでまだ半分というところで、無情にも例のサイレンが鳴り始めた。
『そんなぁ~』
 もう数分で始まってしまう!

 マリはペダルを漕ぐ足を止める事も無く走り続けた。
 が、その時真っ暗な空にオレンジ色の発光体が一つ、音も立てずにマリを追い越していった。
 マリは思わず自転車を止める。

 オレンジ色が飛び去った西の空。
 見ていると今度は南の方角から黄色い光が、ものすごい速さで飛んできたかと思うと、直角に曲がって、やはり西の方角へ飛び去って行った。

 もはや間に合わないとあきらめて、自転車のサドルから夜空を見回すと、例の光は様々に色を変えてあらゆる方向から飛んできて西の空に集結し始めた。
 はじめは真っ暗で見えなかった西の空は次第にUFOが放つ妖しい明滅でぼんやりと光って見え始めた。

 どうやら光の集結が収まった後……。
 じっと見ていると、その光る雲の様に見えるものの中から、鋭い光線が音も無く、マリの頭上を貫くように疾って行った。
 その瞬間、マリは全身が総毛立ち、近くの送電線がブーンと鈍い音を立てた。

 UFOは最高速を使った時にのみ、強力な磁力を発するらしく、送電線で誘導された電気エネルギーは、各種電線を通じて家庭の電子機器を狂わしてしまう……。

 最近ではソレに対応した設備を備える建築物も増えているが、マリのマンションは未対応なのだ。
 おそらくPCは修理に出す事になるだろう。

 しかしマリは、もはやそんな事も忘れて、次々と放たれる光の矢を惚けたように見つめていた……。


 UFO……。
 昔は「未確認飛行物体」という意味でそう呼ばれていたが、現在ではその正体を知らぬ者はない。
 双子座の方向、その遥か彼方の銀河より飛来する異星人=デンナー星人の船なのだ。
 UFOという言葉は、現在ではただの呼び名として定着しているのみである。
 そして地球の空を普通に飛び交うUFOは世界各地で地球人とカンパニーレベルで交易を行っている。

 毎年この時期になると地球上のあらゆる場所から条件の良いマリの住む地方に集結し、地球の公転と自転の速度をカタパルトに利用して遠い故郷に帰って行くのだ。
(ちなみに条件の良い土地は地球上に数箇所あるのだが、海上ではダメらしいのだ。)

 もちろん宇宙空間に留まった状態からでも飛び立つ事は可能だが、現在の様に定常的な往来を行うとなると、宇宙人もやはり燃費を気にするらしい。

 遠い昔には月の引力を利用する為に、月の晩に限って行われ、あたかも月に向かって飛んで行く様に見えたというが、本当かどうかは判らず、それに関する文献も無
い。

 多い時には数百ものUFOがオリオン座の弓とは逆の方向に、まさに光の矢となって東の空へ飛んで行く。
 今夜もまさにピークを迎えたようだ。

 マリは、次々と西から東に飛び立つ光の矢を眺めながら、子供の頃に偶然兄と見た、一機だけで飛び立って行った、UFO(未確認飛行物体)の事を思い出してい
た……。


 おわり

 2003.07.11 #045


 ちなみにデンナー星人はなかなか商魂たくましいらしく、今日も地球のあちこちで、「儲かりまっか?」「ボチボチでんな~」と商売に余念が無いそうである。

 夏に書いたものなので、季節も夏にしたかったんだけど(天の川もキレイだし)でも銀河系の外側に行きたかったので冬の夜にしたんだった。
作品名:UFOの夜 作家名:郷田三郎(G3)