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タマ与太郎
タマ与太郎
novelistID. 38084
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クラインガルテンに陽は落ちて

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 由樹と会えたときは立ち話をした。僕はこの不思議な関係が好きだった。「ウマが合う」というのとはちょっと違う。「意気投合」というのも正確な表現ではない。とにかく会話が楽しかったのだ。
 僕は空いているスペースにピーマンの苗を植えた。ニンジンは発芽して本葉が2、3枚出始めていた。
 6月になった。梅雨に入る前に雑草取りをしておこうと僕はクラインガルテンに向かった。いつもの場所に自転車を停めようとゆっくり走っていると、正面から見覚えのある麦藁帽子の女性が自転車を引っ張って歩いてきた。
 由樹だった。
 僕はいつものように声をかけた。
「こんにちは。どうしました?」
「こんにちは。実はタイヤがパンクしてしまって」
 由樹の自転車を見ると後輪がぺちゃんこだった。籠には収穫した野菜や肥料、小さなシャベルなどが入っている。
「そりゃ大変だ。僕の自転車に載せてください。おうちまで運びますよ」
由樹の自宅があそこに見える高台にあるマンションだということは、会話を通して知っていた。
「いえ、大丈夫ですよ。ありがとう」
「いいから載せて」
 僕は半ば強引に由樹の荷物を自分の自転車に移した。僕たちはゆっくりと由樹のマンションに向かって坂道を上った。5分ほどでマンションのエントランスに着いた。
「ここで大丈夫です。ありがとう、助かりました」
「いえいえ、たいしたことではありませんよ」
「柚木さんはこれからですか?」
「ええ、今日は草むしりです。由樹さんは?」
「自転車屋さんに行かないと」
「ああ、そうですね」
 僕は「パンクを直してあげられたら良かったな」などと思いながら、今上ってきた坂道を一気に下った。