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タマ与太郎
タマ与太郎
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クラインガルテンに陽は落ちて

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第1章 希望退職



 新しい年が明けたこと以外、僕はなんの代わり映えも無い日々を送っていた。中堅機械メーカーの中間管理職として、そろそろ10年が過ぎようとしている。毎日のストレスで押し潰されそうになるときもあった。昨年50歳になった僕は、定年までのあと10年をどう過ごしていけば良いのかを時折考えるようになった。リタイアするにはまだ早い。かと言って会社における地位も先が見えている。独立するには資金も気力も不足している。人生で大成功を収めたわけではないが、まあまあ自分としては満足の行く身の丈にあったサラリーマン生活なのかな、と自分を慰めてみたりもする。
 正月気分も抜けた1月中旬、社内ネットワークの掲示板にひとつの案内文が掲示された。希望退職の募集案内だった。ついに我社にも来たか、という思いで僕はその案内を見た。募集条件にはこうあった。

●役職を問わず50歳以上の者
●退職金係数は通常の1.2倍
●退職を希望しない場合給与据置き
●退職基準日は本年3月末日
●応募の締め切りは本年1月末日
 
 まるで50歳になった僕を待っていたかのような内容である。と同時に僕にとっては厳しい条件であった。この春大学2年になる娘にはあと3年学費がかかる。家のローンはあと15年。妻のパート収入があるので何とか食べていくには困らないが、今まで以上に節制しなければならなくなるのは目に見えている。ただ会社には未練は無い。
 僕は帰宅後妻に相談をした。妻は「あなたの好きなようにしたら」と冷静に答えた。本心は娘の卒業までは今の会社で頑張って欲しいと思っていたはずだ。以前ストレスで身体を壊した僕を見て、無理はさせられないと気を使ってくれたのだと思う。僕はそんな妻に申し訳ないと思った。応募の締め切りは今月末日だ。締め切りまでの2週間じっくり考えることにした。
 僕は通勤途中の駅で、区が発行する無料の区報を手に取るようになった。以前この区報で職業斡旋の記事を見た覚えがあったからだ。いろいろな可能性を考えて、職探しも同時に進行させようと考えた。インターネットの転職サイトには以前から登録してあった。希望に合った求人が出るとメールで知らせてくれる仕組みになっている。今までにも何社か紹介があったが、その気も無かったので参考に目を通す程度だった。ハローワークにも行ってみようと思った。