Atheist and I
「お断りだな」
「誰が勧誘してると言った。単に聞いてみただけ」
――そもそも私は神なんて信じちゃいないんだから。
――そうだろうな。
彼女に伝えるはずだった言葉は、自主的に規制した。そんなことを言えば、彼女はどんな反応をするか。
……あまり考えたくない。どんな行動を取られるかわかったもんじゃないし。
「大体、カミサマなんて居たとしても何の役にも立たない」
――所詮、人生は自分で変えていくしかないんだから。
「……それは経験から言えることか?」
その発言が予想外だったのか、奴は目を見開きしてジーっと凝視してくる。
(下手なこと言うんじゃなかった!)
そうは思っても後悔しても後の祭り。
一見にこやかなのに冷ややかな笑顔で、ずずずーいと顔を近づけてくる。
(顔はいいんだよな、顔は)
その整った唇は醜く口を歪めた。瞬間、背中の毛が粟立った。
眼は一ミリも動かしていない。器用なもんだ。
「ご名答。神になんて祈ってもそれだけ時間の無駄。他力本願以外なんにでもない」
「じゃあ信じてたのかよ? 祈ったのかよ? 時間を無駄にしたんだな?」
「これが、その証拠」
彼女の、昔右目があったであろう其処は、不気味な呪いのように見えた。
作品名:Atheist and I 作家名:狂言巡