refrigerator
「いやいや、じいさん、隣の部屋に比べればまだましですたい」
「ばあさんや、今日は豚がいなくなってしもた」
「あらま、そういや長ネギも見かけんね」
「卵もふたつ足らんのですたい」
「今朝方まではあったのにのう」
「しかし、ここはやっぱり寒か」
「ばあさんや、今日はトマトとキュウリが……」
「また、なくなったんか?」
「いや、増えとる」
「あらま」
「オクラとミョウガもおらんな」
「知らん」
「サンマはどこ行った?」
「隣の部屋に行ってしもたわ」
「ばあさんや、今日は一段と狭かね」
「牛がたくさん来たからな。あっちには乳牛もおる」
「しかし、いつもより寒か。気のせいかい」
「ばあさんや、あの箱はなんですたい」
「知らん」
「窓からイチゴが見えるな」
「旨いんか?」
「知らん」
「しかし、寒か。いつになったら出られるんじゃ」
「知らん」
「ばあさんは、たまに表へ出られるからよかけど、わしは一度も出とらん」
「いつか出られるたい」
「わしは常温保存ですたい。直射日光を避ければよか」
「知っとる。ばってん、ここは寒か」
「もう一年半もここにおる。気づいてくれるんかの?」
「知らん」
「ばあさんや、今日は一段とがらんとしとるな。牛も豚も鶏もおらん。
昨日はあんなに賑やかだったのに。わしとモヤシしかおらん」
「ばあさんや、今日はなんかあるのかい?」
「あれ? ばあさんやばあさんや」
「あれま。今日は、ばあさんの出番か」
「はぁ……うらやましか」
完
作品名:refrigerator 作家名:OBTKN