小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

破天荒アリス!

INDEX|8ページ/8ページ|

前のページ
 

 アリスは思わず、そこにいた奴に指を差してしまった。
「『あれ』とはなんだ、オレ様に失礼だぞ!」
 声には迫力感と凄みがあるし、顔もそれなりに恐かった。だがスケールが小さかった。そこには1mほどの身長の2頭身の怪物がいた。
 アリスはある意味衝撃を受けて言葉を失ってしまった。妖精の里で見たこいつはあんなにデカかったのに……実際のこいつときたら……小さい。
「ガハハハハ、オレ様の迫力にビビって声も出ないようだな!」
「…………」
 アリスとパックは確かに声が出なかった。別の意味で……。
 だがパックはついに耐えかねて、思いっきり大口を開けて笑い出してしまった。
「ははははっ、なんだよコイツ!? もっとすっげぇヤツかと思ってたら……ぷっ」
「きゃははは、そーよね。アタシももっと違うの想像してたのに……頭でっかちはないでしょ〜」
 ついにアリスもパックにつられて大笑いを始めてしまった。それを見た怪物の顔は見る見るうちの赤く膨れていく。だいぶ頭に来たようだ。
「キサマら、よくもオレ様のことをコイツがどうなってもいいのか!!」
 怪物は自分の後ろに置いてあった鉄製の鳥カゴを取り、二人に見せ付けるように前へ突き出した。そのカゴに入っているモノを見てパックの目が大きく見開かれた。
「姫様っ!」
 鳥かごの中に入っていたのは、囚われの身になっていた妖精の里のお姫様だった。
「パック、あなたが来てくれたのですね」
 妖精の姫の声はまるで風が歌っているようだった。
「ガハハハ、キサマらが少しでも変なマネしたら、このお姫様が痛い目を見るぞ!」
「あんたね、卑怯よ!! 卑怯、卑怯、卑怯、卑怯、卑怯、卑怯!!」
 そんなに何度も言わなくてもいいと思うが、怪物には堪えたらしい。
「う、うう、そんなに卑怯って言うな!! 作戦だ、作戦!」
「どっちでもいいわよそんなの。さっさとお姫様返してくんない?」
 アリスは剣を抜き、その切っ先を怪物に向けた。怪物はアリスに襲い掛かってくると思いきや、やはりこの怪物はスケールが小さい。
「オレ様は平和主義者だ。だから今日のところは見逃してやるから、帰れ」
「はぁ? なに言ってんのよ。あんたやっぱり弱っちいんでしょ?」
 前回に引き続き『弱っちい』と言われた怪物は、また焦った表情を浮かべた。
「お、オレ様が弱いわけがないだろ! オレ様はとても恐ろしくて強い怪物の王様だぞ!!」
 自称とても恐ろしくて強い怪物の王の口調はしどろもどろだった。アリスは確信を深めた。
「あんた、弱い。絶対弱い。弱すぎ」
 戦ってもいないのに『弱すぎ』というのもなんだが、確かに弱そうな感じはする。
「帰れ、帰れ、帰れ、帰らないとこのお姫様の……」
 ふと、妖精のお姫様を閉じ込めているかごを見た怪物はなぜかパックと目があった。愛想笑いを浮かべるパック。
「どーも」
「こりゃどーも」
 怪物もなぜだかパックにあいさつを返した。
「じゃ、俺は行くから」
 そう言ってパックはお姫様の手を引いて飛んで行ってしまった。かごに掛けてあった鍵が開いている――逃げられたのだ。
「……逃げられた!?」
 それを悟った怪物は、次に自分の死を悟った。
 一筋に煌く線の先には剣を振り下ろし終わったアリスが立っていた。
 怪物の身体はひびが入り、最期は『アリスの左砂』によって粉々に砕け散った。スケールの小さい怪物にはお似合いの終わり方だった。
「さ〜てと、妖精の里に帰って宝物貰わなきゃ。……パック?」
 パックがいない、パックだけじゃないお姫様の姿も見当たらない。――それどころではなかった。
「!?」
 ここは星見の塔の天辺ではなかった。
「どういうこと?」
 いつの間にかアリスは別の場所にいた。星見の塔の屋上に似て暗いが、ここのほうがもっと暗い。闇だった。
 この時ばかりはアリスも多少は動揺した。
 闇の中にあるのは自分だけ、自分だけが見ることができる。不思議な闇だった。
「まったく、なんなのよ〜っ?」
 大声で叫ぶが、それは誰にも届かない。でもアリスは内心ちょっと安心した。この闇が声までもかき消してしまいそうだったからだ。
 だが、問題の解決にはならない。この状況は森の中で目覚めた時より悪い。
「サイテー」
 そう最低だった。
 アリスポーズを取ったアリスは考える。まず、これは夢ではないらしいということ。夢にしてはリアリティがあり過ぎるし、湖で倒した怪物もそんなことを言っていた。
 現実空間とはいったい何なんだろうか? きっとそれが元の世界に帰る鍵に違いない。
 しばらくして、アリスの前に何かが現れた。頭には小さめのシルクハット、茶色い毛の上にジャケットを羽織り、手にはステッキを持ち、首から懐中時計をぶら下げていた。
 アリスはそれが何なのかがすぐにわかった。
「あ、あの時のウサギ」
「やあ」
 アリスはウサギと会話をしたのはこれが二度目の経験だった。
 ウサギはアリスとのあいさつが終わると遠くを見つめ何かを待っているようにぼーっとし始めた。あの時とまったく同じだった。
「なにしてるの?」
「べつに」
 この会話も同じである。
「別にって……今度は絶対別にじゃないでしょ、こんなところで!?」
「たしかに、ウサギなこんなところにいるのは変だね」
「自分でわかってんじゃない」
「なるほど、ボクは自分で理解しているのか」
「あんたの言うことって、ホントさっぱり」
「それはきっと君がボクじゃないからさ」
「はぁ?」
 アリスはなにがなんだかもうわからなかった。ウサギのしゃべっている言葉が日本語なのかと疑ってしまうほどに。
「じゃあ、ボクは時計を動かしに行くから」
ウサギはぴょんぴょん跳ねるように二本の足で歩き、どこか行ってしまおうとした。
「あっ、ちょっと待ってよ」
 アリスは手を伸ばしウサギのあとを追いかけたが、ウサギとの距離はどんどん離れていく――。
 ウサギはそれほど早く移動しているようには見えない、けれでアリスは追いつくことはできなかった。そしてアリスはついにウサギに追いつくことは無かった。ウサギはアリスの視界から完全に姿を消してしまった。
 けれでもアリスはウサギを追いかけ続けた。そして、身体全身を不思議な感覚が襲った。それはまるで何か薄い膜のような物を突き抜けた感じ……。

 ――目が覚めるとそこは図書室だった。
 自分が本棚に押し潰された場所と全く同じ場所。ただ、倒れたハズの本棚は元通りに戻っていた。
 どこからどこまでが現実だったのかわからない。服装も学校の制服に戻っているし、あの世界での出来事が本当にあったのかは疑わしい。
 だが、アリスにとってはそんなことどうでもいいらしい。
「あ、もうこんな時間。家か〜えろ」
 図書室の時計に目をやったアリスは何事もなかったように図書室をあとにした。
 元の世界に戻ったアリスには普段通りの生活が待っていて、これからその普段通りの生活が、普段通りに始まる。
 あの世界での出来事は白昼夢のように……。

 アリスがゆく! おしまい