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こぼれた涙の色~フォーゲットミー ナットブルー 番外編~

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こぼれた涙の色〜フォーゲットミー ナットブルー番外編〜


誰かを愛することはできるけど、自分を愛することは難しい。私はずっとそう思っていた。でも、ある人に言われた。自分を愛することができない人間に、誰かを愛するのは無理だって。
じゃあ、私が経験してきた恋は、全部ニセモノということだ。付き合ってきた男の子とはあまり長続きしなかったし、途中で飽きることもあった。きっと、私が本気で相手に向き合うのを避けていたからだ。最初のうちは楽しい。だけど、時間が経つにつれ、刺激が足りなくなって、関係を放棄してしまうのだ。我ながら最低な女だと思っている。
私は幼いころから、両親からいろんなものを与えてもらった。父は医者。母は夜な夜な家を出て、遊びに行ってしまう。二人とも家にいることは本当に少なかった。裕福な家庭。でも寂しかった。絵本も読んでくれなかったし、授業参観も来てくれなくて、食事も一人ぼっちだった。おもちゃは部屋にあふれるけど、心はからっぽ。だから、刺激が欲しかった。愛されている実感が欲しかった。一人は嫌い。常に他人からの“愛”を求め続けた。
私が経験してきた“ニセモノの愛”は、やがて変化することになる。それは恵里という人間に出会ってからだ。
彼女とはドラッグストアで偶然出会った。一目見て、話がしたいと思った。どこか寂しげで、人の良さそうな雰囲気に、孤独な私の心は揺れ動いた。
直観は的中した。頻繁に連絡を取り合い、恵里とは仲良くやっていけそうだと思った。彼女はとても優しい。そして私の傷を包み込んでくれるような、母性をも感じられた。
恵里といると安らげた。だけど、いままで経験した“ニセモノの愛”のせいで、いつか彼女に飽きてしまうんではないかと不安にもなった。だから、私はバカなことをした。変わらず優しい彼女を試そうとしたのだ。
私は功一という男を街で逆ナンした。真面目で優しそうな男だった。恵里は私に、友情というよりも、愛情を注いでくれている。それがどういう意味なのか、薄々は気付いていた。だから、功一を自宅マンションに連れていって、彼女の反応が見たかった。嫉妬してほしかった。本音をぶつけて欲しかった。恵里が「私だけを見て」と言うなら、私は功一と喜んで縁を切っていたはず。だけど、彼女は何も言わなかった。
腹が立った。がっかりした。そして苦しかった。
やけになって、好きでもない男と、週末は遊びに出掛けた。恵里の目の前で、功一とのセックスの話や、どれほど彼を愛してるか、と何度も語った。それが彼女を追いつめているとは知らずに。
―――そしていま、私はひんやりとした、小さく薄暗い部屋のなかで突っ立っている。
頭はボンヤリとしていて、夢を見ているような気分だ。
目の前には、小さなベッドで眠っている、大好きな女の子がいる。恵里。私の恵里……。恵里はもう目を開けない。身動きさえしない。彼女の携帯電話を、私はぎゅっと握りしめた。携帯電話には“ありがとう”と書かれた一通の未送信メールがあった。
どうして、死ぬ直前にまで、あなたはそんなに優しいの……? 私はその場に崩れ落ちた。
「あぁ……恵里、恵里、目をあけて……」
「恵里がいなかったら、私、どうすればいいのよ」

恵里は“本物の愛”を私に注ぎ続けてくれた。だけど、私は………。

「いまさら気付いたって、そんな………」
「愛してる……愛してるよぉ……帰ってきて……」

私は子供のように声をあげて泣いた。一人は嫌い。ねぇ、恵里なら分かるでしょ? 私はずっと膝を抱えたままの子供なんだよ。体だけは大人になって、心はずっと臆病な子供。
「置いていかないで……」

体が震える。涙が止まらない。
愚かで、罪深い私のことをけなしてよ。
勝手でバカで、どうしようもない私のことを………。

「ああああああああっ!」

いくら泣き叫んでも無駄なことは分かっている。

「一人はやだよーっ………怖い。怖いよぉ……」
「恵里ぃっ……!」

………私は何度も叫び声をあげた。それに気付いた白衣の男がやってきて、私の手を引いた。私は暴れた。恵里から離れたくなかった。でも、力に負け、引きずられるように部屋を出て行った。途中、恵里に似た、中年の女性が呆然とうつむいている姿を見た。
恵里、恵里。
ごめんね。ごめんね。
あなたに出会って、私は“本物の愛”を知ったよ。
本物の愛を知ったよ………。



【END】