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きみとおとなり(1)

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ちょこれーとむーすこんぷれっくす




 今はまだ夏休みで学校はまだない。ぼーっとしながら見慣れない天井を見る。そうだ、お引越しをしたのだった。ぼんやりと昨日の事を思い出す、真っ先に出てくるのは達哉の元気な笑顔。まだ頭の中はぽやぽやしてるけど、今日達哉がお手伝いに来てくれると約束してくれたことを思い出した。淳は起き上がると、小さな箪笥から服を取り出して、パジャマを着替えた。白いシャツに吊りズボン、見慣れた服と見慣れない部屋の景色。まだ開けられるのを待っているダンボールでごった返していた。空っぽの家具とまだお気に入りの本しか入っていない本棚、ダンボールに囲まれた部屋。早く片付けてお気に入りの本を読みたいなと思う。大きめの窓に近寄って、外を覗くと今日は晴れ。太陽光が淳の目を眩しく差した。
「ン…」
 小さな手をかざしてその先を見ると、隣の家の窓が見えた。窓際にはフェザーマンのおもちゃが置かれている。黒い影がもぞもぞ動くと、フェザーマンのおもちゃがふっと消える。なんとなくダメもとで、窓を開けると声をかけた。
「たっ、達哉!」
 お隣の家の窓ガラスが揺れてドタドタ騒がしくなる。勢いでバンっと達哉が窓ガラスに手を突いて現れる。上下に開く窓が勢いよく開かれると、達哉が大声を上げる。
「お、スゲー!オレらの部屋超近い!淳っ!おはよう!」
「おはよう!達哉くん!」
 達哉の顔には満面の笑みが浮かんでいる。近いとはいっても2メートルくらいは空間がある。手を伸ばしても届かない微妙な距離。でも、お互い顔が見えるっていうだけで、妙にうれしい。
「今日何時くらいにいけばいい?」
「えっとね、朝は病院に行かなくちゃいけないから…お昼かな?」
「そっか!わかった!足痛いか?」
「だいじょうぶ!」
「ほんとかよー!」
「ほんとだよー!」
 やりとりがおかしくて二人で笑う。なんだか窓を覗けば友達が見えるなんてまるで冒険本の中みたいだと思った。しかもそれが、元気いっぱいで、淳の手を引いて回る男の子。きっとこれが本の中の世界なら達哉が主人公なんだろうなと思う。
「淳?起きたの?朝ごはんできてるわよ!いらっしゃい」
「はーい!じゃあまたね!達哉!」
 窓の向こうでまだケタケタ笑っている達哉がお腹を抑えながら手を振ってくれた。
 今日は一日中ママがいると聞いていた。淳はママの朝ごはんが食べれるのがうれしかった。片付いたリビング、背の高い黒の木のテーブル。その上にはほかほか湯気を立てるコーンスープとハムエッグ、トーストが並んでいるのが見える。パパが新聞を読んでいたが、淳が来たのを知ると新聞を下ろして微笑んだ。
「おはよう淳」
「おはようパパ!」
 淳は椅子に座る。背が高い椅子だから足がプラプラしてしまう。
 淳のパパは高校の先生、ママは女優。淳の自慢のパパとママ。二人とも忙しいお仕事をしているので、なかなか家族全員で揃ってお食事する機会は少ない。特に朝は二人とも準備で忙しそうにしていることが多い。どうしてものときは、淳が一人でママの置いておいてくれたスープを温めて、トーストをかじるしかない。二人とも忙しいから、淳はいい子にしなければならなかった。
 でも、引っ越して学校が始まるまでの数日間だけは家族一緒にずっと居れると二人から聞いた。淳はうれしかった。最初は向こうの友達と別れるのが嫌で、ダダをこねたりしたけれど、達哉に出会えたのでもう寂しくなんかない。むしろ、今は引っ越してこれたことがうれしくて仕方が無い。
「おはようママ!」
「おはよう、淳…」
「淳は朝から上機嫌だな」
「うふふ…淳ね、もう仲のいい友達が出来たの。きっとそれがうれしいのよ」
「そうか、それはよかったな淳?」
「うん!達哉っていうの!フェザーマンが好きなんだよ!昨日一緒にテレビ見せてくれたんだ!あとね!ケガしたぼくをずっとはこんでくれたの!かっこいいんだよ!」
 パパが優しく微笑む。
「そうか、それはお礼をしなきゃいけないな!」
「ねぇ、パパ、今日達哉がお引越しのお手伝いしてくれるんだって!ぼくの足、けがしてるからなんだって!」
 淳はうれしくて本当は全てママに了解を得ていることなのに、逐一パパにも報告したくなっていた。
「…達哉くんは優しい子なんだね…いい友達だ」
 コーヒーを飲みながら、優しくパパが笑う。
「そうだよ!達哉ってすごくやさしいんだ!」
 そう、達哉は優しい子。だから淳は達哉が好き!そんな淳の表情を見て、パパもママもくすくす笑う。ずっとずっとこうやって家族3人の団欒が続けば良いなと思う。でも、それは無理なことだって淳は知ってる。でも、もしまた一人ぼっちになることがあっても、今の淳には達哉がいるからきっと寂しくない。


 達哉はドタバタと階段を駆け下りると、途中で兄ちゃんにぶつかりそうになった。
「兄ちゃん!のけのけー!」
 お気に入りのレッドイーグルを持ち上げて駆け下りる。
「コラ!また達哉は階段を走って…転んだらどうするんだ!というか!挨拶!」
「…お、おはよう」
「おはよう」
 兄ちゃんは真面目で成績も優秀だし、クラブでも大活躍している。そのうえお菓子も作れる。いっつも達哉は兄ちゃんと比べられては怒られた。名前も達哉と克哉で似てるし呼ばれるときはちょっと気を使う。本当は自慢の兄ちゃんなんだけど、そういう時はちょっと嫌いになる。リビングにつくと、テーブルの前にはお父さんとお母さん。
 お父さんは刑事で、お母さんは普通の主婦。達哉の一番の自慢はお父さんが刑事で正義の味方だということ。フェザーマンみたいにキックやパンチで戦わないし、誰も知らないところで戦い続けるお父さん。フェザーマンみたいにハデじゃなくったって十分カッコイイ。ちょっと強面で無口な、達哉の憧れのお父さん。
「おはようお父さん!」
「…おはよう達哉」
 テーブルに兄ちゃんもやってきて挨拶をして座る。テーブルに並んでいるのは焼き魚と納豆、小鉢にはほうれん草のおひたし、かぼちゃの煮つけ、そして今お母さんが運んできているお味噌汁。
「いただきまーす!」
 達哉は元気よく言うと、ご飯のこんもり乗ったお茶碗を手に、焼き魚に箸を入れる。
「そういえば達哉、さっき部屋で大声でしゃべってたけど、なんだったの?」
「えへへ!淳の部屋がすっげー近いんだ!窓から淳がみえたからおしゃべりしてた!」
「あ、そうだ。淳くんで思い出した、達哉、冷蔵庫の中にムース入れてあるから、今日出かけるとき持っていけよ!」
「うん、ありがとう!」
 兄ちゃんはパティシエを目指している。夢を追うその姿は達哉にはかっこよく見えていた。ただ、一つだけ困ったことがあって、作ったお菓子の試食係を無理矢理達哉にやらせるのだ。必ず美味しいお菓子に当たるわけではないし、失敗が続くとムキになって同じお菓子ばかりつくるところがあるので、少しずつ達哉の嫌いなお菓子が増えている。特にケーキなんかはもう、見るのも嫌になってきている。そういうところが無ければなぁ…と達哉は思う。
作品名:きみとおとなり(1) 作家名:妄太郎